国際人権活動日本委員会

撮影=鈴木信幸(港北区役所屋上庭園のネジバナ捩花。別名モジズリ綟摺)

doc-p-title自由権規約委/第6回日本政府報告に対するカウンターレポート

2013年7月20日 国際人権活動日本委員会 (JWCHR)

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目次

はじめに
1 リスト・オブ・イシュー作成のための情報提供
Ⅰ 日本国憲法における「公共の福祉」概念 ~規約遵守の障害(2条2項)
Ⅱ・死刑確定者の処遇等について (6条)
Ⅲ・死刑確定者の処遇等について② (10条)
Ⅳ・代用監獄システムと証拠開示について (10条)
Ⅴ・取調べと虚偽自白 (10条)
Ⅵ・市民・労働者に対する思想調査・プライバシー侵害等 (18条)
Ⅶ・言論表現の自由 (19条) 
Ⅷ・選挙・政治活動の自由侵害事例 (19条)
Ⅸ・平和的な集会の自由 (21条)
2 公正で独立した国内人権機関の設置を(2条)
3 第一選択議定書の早期批准を (2条)
4 男女平等の権利と過労死防止 (3条)
5 「慰安婦」問題 (7条、8条)
6 治安維持法犠牲者への謝罪と賠償 (7条、18条)
7 「日の丸・君が代」問題 (18条、19条 )
8 「日の丸・君が代」の強制と思想信条情報収集の問題 (17条、18条、19条)
9 生きている間に レッド・パージの名誉回復を!(18条、19条、22条,26条)
10 「表現の自由」を侵害する教科書検定制度 (19条)
11 消防職員の団結権保障を早期に実現せよ (22条)
12 日本航空(JAL)による165名の不当解雇に関する報告 (22条、26条)
協力団体名

はじめに

私たち国際人権活動日本委員会は1993 年に「日本の職場における人権侵害を国際世論に訴える実行委員会」として発足した。2004年2月には国連経済社会理事会より特別協議資格を取得し、人権 理事会での発言や、各人権規約委員会や拷問禁止委員会に、市民社会の一員として日本の人権状況を報告し、積極的に傍聴参加を行なっている団体である。

2008 年に行なわれた第5回自由権規約政府報告審査以降、政権交代した新政府のマニフェストにより「取調べの可視化」、「国内人権機関」そして「個人通報制度」 の実現は時間の問題であった。これにより、日本の人権状況は少しでも国際基準に近づくであろうと、活動を続けてきた多くの市民団体はこの状況を歓迎した。 しかし、政府の混迷により、これらの課題は何ひとつ実現されることなく、2012年、この政府は政権から去リ、戦後長く政権の座にあった保守政権に変わっ た。

日本 の人権状況を国際基準にと訴え続けている市民社会に対し、現政府は市民社会との対話を避けている。国連勧告に「従う義務なし」と閣議決定し、先に行われた 第2回拷問等禁止条約の審査での建設的対話を拒否するかのような代表団長の常軌を逸した態度や、審査後出された勧告に対し「従う義務なし」との閣議決定を するなど、極めて消極的かつ後退的な対応を取り続けている。

私たちはこれに屈することなく、これまでの運動の成果を確信しながら、第6回日本政府報告の審査に向けて、現在の日本の様々な人権状況について報告し、人権の向上に引き続き取り組む。

1 リスト・オブ・イシュー作成のための情報提供

 

Ⅰ 日本国憲法における「公共の福祉」概念 ~規約遵守の障害(2条2項)

A 結論と提言

日本 国政府は、前回の委員会まで度重なる懸念表明と強い勧告にもかかわらず、依然として、「公共の福祉」概念を理由に規約上の権利を包括的に制限する取扱いを しており、この概念は規約のもとで許される範囲を超える不当な制限を許容している。「規約の制限範囲を超えた制限」はなし得ないとした規約5条1項及びこ の規約において認められる権利を実現するために「主要な立法措置」を取るべきとした規約2条2項に違反する。

政府は、この概念をもって規約の権利を不当に制限することにつながる国内法を速やかに改正し、また裁判所は、憲法を含む国内法を規約に適合するように解釈適用するべきである。

B 規約人権委員会の懸念事項・勧告

1998年第4回日本政府報告審査の総括所見(Concluding Observation)において、自由権規約委員会は、規約で保障されている権利に対して、「公共の福祉」を根拠として制限が課されうることに対する懸 念を再度表明し、前回の見解に引き続いて、再度、締約国に対し、国内法を規約に適合させることを強く勧告した(コメント8頁)。

これ は、第3回日本政府報告審査の最終見解において、委員会が、日本国憲法第12条及び第13条の「公共の福祉」による制限が、具体的な状況において規約に適 合する形で適用されるものであるかどうか、明瞭ではない(コメント8頁)、表現の自由の権利の尊重に関して、法律や判決の中には制限的なアプローチをして いるものがあることを残念に思う(コメント14項)、と懸念を表明したにもかかわらず、その後も依然として国が改善しないため、委員会が、懸念表明からさ らに進んで、その改善を「強く勧告」したものである。

しかし、その後の改善は全く見られないため、2008年第5回日本政府報告審査後の総括所見(Concluding Observation)パラ10において、以下の懸念及び勧告が表明された。

10、委員会は、「公共の福祉」が、恣意的な人権制約を許容する根拠とはならないという締約国の説明に留意する一方、「公共の福祉」の概念は、曖昧で、制限がなく、規約の下で許容されている制約を超える制約を許容するかもしれないという懸念を再度表明する。(第2条)

締約国は、「公共の福祉」の概念を定義し、かつ「公共の福祉」を理由に規約で保障された権利に課されるあらゆる制約が規約で許容される制約を超えられないと明記する立法措置をとるべきである。

C 政府の対応と第6回日本政府報告書の記述

政府 は、第5回日本政府報告書において、憲法における「公共の福祉」の概念については、第4回報告及びコア文書第64項から第68項において述べたとおり、と だけ記述していて、その補足説明の記述も第4回報告の内容と全く同一であった。そこには前回の委員会の勧告を受け入れた改善や進歩についての情報が全く記 述されていない。

政府は、第6回日本政府報告書において、改めて以下のとおり述べている。

憲法に おける「公共の福祉」の概念は、これまでの報告のとおり、各権利ごとに、その権利に内在する性質を根拠に判例等により具体化されており、憲法による人権保 障及び制限の内容は、実質的には、本規約による人権保障及び制限の内容とほぼ同様のものとなっている。従って、「公共の福祉」の概念の下、国家権力により 恣意的に人権が制限されることは勿論、同概念を理由に規約で保障された権利に課されるあらゆる制約が規約で許容される制約を超えることはあり得ない。

その上で、最近最高裁が言い渡した以下のような事例を紹介し、評釈している。

「このような基本的人権相互間の調整を図る内在的な制約である「公共の福祉」についての典型的な判例としては、これまでの報告の通りであるが、最近のものとして、次の最高裁判所2011年7月7日小法廷判決(要旨)等でこの判断が踏襲されている。

「本 件は、高等学校の卒業式において起立して国歌斉唱することに反対していた被告人(元教諭)が、卒業式の行われる体育館で大声で保護者に呼びかけを行い、制 止した教頭らを怒号し、その場を喧騒状態に陥らせて卒業式の開会を遅らせた事案であるところ、最高裁判所は「表現の自由は、民主主義社会において特に重要 な権利として尊重されなければならないが、憲法21条1項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是 認するものであって、たとえ意見を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない。被告人の本件行為 は、その場の状況にそぐわない不相当な態様で行われ、静穏な雰囲気の中で執り行われるべき卒業式の円滑な遂行に看過し得ない支障を生じさせたものであっ て、こうした行為が社会通念上許されず、違法性を欠くものでないことは明らかである。」旨判示して被告人に威力業務妨害罪の成立を認めたものである」

この事例及び上記政府の評釈に対する我々の反論は以下のとおりである。

学校 の卒業式等において、国旗に向かって起立し国歌を斉唱する行為は、国旗及び国家が象徴する国家に対する敬意を表明する行為であり、当該行為を強制すること は公権力が一定の思想に基づく行為を強制するものであって、国民の思想良心の自由と抵触するものである。規約19条に関する一般的意見(General Comment)34Para38においても「国旗とシンボルへの不敬について厳罰に処すべきではない」とされている。にもかかわらず、最高裁判所の判断 において「国歌斉唱の強制」が思想良心の自由と抵触することが看過され、公共の福祉概念をもって、国歌斉唱強制に対する被告人のささやかなプロテスト行動 まで制圧し、その結果、前記被告人の刑事処罰が肯定されているものであって、同判決は上記の事案そのものが人権規約18条及び19条に抵触するケースであ ることを隠蔽する役割を果たしている。

2008年の第5回日本政府報告審査後の総括所見(Concluding Observation)のパラ25で改正を勧告された公職選挙法は、すでに規約人権委員会でもご承知の通り、選挙活動の自由をがんじがらめに制約するも のであるが、これを合憲とする最高裁判例のために、しばしば人々の表現行為であるビラなどの配布が法定外文書配布として逮捕、起訴、処罰の対象とされてき た。最近もその例は後を絶たないが、この最高裁判決の人権制約、論理は「公共の福祉」概念であり、今日まで改められていない。

D 意見

日本国 政府は、今回の報告書の中で「・・『公共の福祉』の概念は、各権利ごとに、その権利に内在する性質を根拠に判例等により具体化されており、憲法による人権 の制限の内容は、実質的には、規約による人権の制限事由の内容とほぼ同様のものとなっている。従って、「公共の福祉」の概念の下、国家権力により恣意的に 人権が制限されることはあり得ない。」と説明するが、日本における裁判の実情はそれとは異なっている。

具体的 な事件の判決の中には、規約で保障された権利が日本国憲法でも保障されているケースにおいて、制限の必要性を判断するにあたって、比例原則に従って審査せ ずに、国内法の法概念である「公共の福祉」を理由として憲法に違反しないと判断し、それ故規約にも違反しないという論理を展開しているものが多くあり、最 高裁判所もこれを是認している。

要するに、規約上の権利の制限の考察において、規約人権委員会が発表した一般的意見や個人通報に対する最終見解において明らかにされた解釈理論を尊重せず、国内法の法概念に依拠して考察している。

しか し、自由権規約委員会は、規約で保障された権利を制限する場合には、規約のそれぞれの条項で定められた制限目的と厳格な必要性の範囲内においてのみ制限が 許されると考えており、これ以外の理由によって、或いは国内法の解釈理論によって、規約で保障された権利を制限することは許さないという見地に立ってい る。

従って、規約で保障された権利が日本国憲法で保障されている場合でも、「公共の福祉」によってその権利を制限することは許されず、規約で定めた制限目的と必要性の範囲内においてのみ、制限は許されると取り扱うべきである。

日本国 憲法の「公共の福祉」論は、「制限目的と手段との合理的関連性」と「利益衡量」を規定にしているから、その考察は判断者の価値観に左右され、明確性に欠け る。そのため往々にして個人の人権より国家的利益を優先して制限を許容する危険がある。本レポートで取り上げた、表現の自由に関する教科書検定や選挙運動 の自由の問題などで例示する判例は、こうした傾向の現れである。

これに 対して、自由権規約委員会は、規約上の権利の制限の必要性を判断する場合には、「比例原則」に依拠しており、制限を必要とする害悪ないし脅威の存在の具体 的な立証を要求しているし、それらの脅威と制限が比例しているかどうかを客観的に考察するから、制限の審査は厳格であり、規約による人権保障の方が、最高 裁判所の解釈による憲法の保障より上回る事例が多いと考えている。

規約を 批准した締約国は、規約上の権利を尊重し確保する義務を負っている。この義務は規約上の法的義務であり、司法部を含めて、締約国を全体として拘束するもの である。また規約の権利実現は、無条件かつ即時的な効果がなければならず、義務の不履行は、国内の政治的、社会的、文化的または経済的理由によって正当化 することはできない。

よって、日本国政府は、自由権規約委員会の勧告に従って、規約上の権利を不当に制限する国内法を速やかに改正し、また裁判所は、国内法を規約に適合するように解釈適用するべきである。

 

Ⅱ・死刑確定者の処遇等について (6条)

A 結論と提言

名張毒ぶどう酒事件[1]の奥西勝(87才)さん、袴田事件[2]の袴田巌(77才)さんは40年以上、独居拘禁が続いており高齢で、一人は気管を切開して酸素吸入を受ける重篤な状態にあり、一人は長期にわたり重症の拘禁症を患っている点で再審請求を訴える死刑囚の中でも極めて深刻な状態におかれている。

ついては、死刑囚一般の置かれている医療環境の改善とは別に、以下の勧告を要請する。

1、奥西勝さん、袴田巌さんについて、早急に国の費用による、外部医療機関での治療を含めた最善の医療措置を受けられるように確保すること。

2、両名の死刑執行の停止を行うとともに、再審請求の審理を速やかに行うこと。

3、どのような医療措置を受けているのかを、家族、弁護人等に知らせ、それらの者が担当医など責任ある専門家と直接アクセスすること、およびインフォームドコンセントを得られるように必要な措置を講じるべきこと。

 

B 規約人権委員会の懸念事項・勧告

2008年の第5回政府報告審査の総括所見(Concluding Observation)では、死刑制度および死刑囚の処遇について、パラ16において言及しているが、死刑囚の医療措置に直接関するものはない。

 

C 政府の対応と第6回日本政府報告書の記述

第6回日本政府報告書パラ107~109、113

(3)死刑確定者の処遇

(a)死刑確定者の収容の根拠、処遇一般

87. 死刑の判決が確定した者は、死刑の執行に至るまで、拘置所に収容される。死刑確定者は、作業を行う義務はないこと、飲食物の自費購入が認められることな ど、おおむね未決拘禁者に準じた処遇を受けている。また、その心情の安定に資するため、希望により宗教教誨及び篤志面接委員による助言・指導も行われてい る。

(b)死刑確定者の外部交通

88.死刑確定者は、死刑の執行を待つといういわば極限的な立場に置かれ、極めて大きな精神的不安と苦悩のうちにあるので、身柄を厳格に確保するとともに、その心情の安定が得られるよう配慮する必要がある。

89. このような観点から、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律では、死刑確定者の外部交通を、①親族、②重大な利害に係る用務の処理のための面会又 は信書の発受をすることが必要な者、③心情の安定に資すると認められる者については原則として許すこととし、それ以外の者については、交友関係の維持その 他面会等を必要とする事情があり、かつ、刑事施設の規律・秩序を害するおそれがないと認めるときに、刑事施設の長の裁量により、許すことができると規定されている。

(e)高齢者および精神障害者

93. 我が国の法律上、死刑の執行に関し、高齢者であることを理由に特別の取扱いを定めたものはないが、刑事訴訟法第479条第1項は、死刑の言渡を受けた者が 心神喪失の状態にあるときは、法務大臣の命令によって執行を停止すると規定しており、死刑確定者の精神状態については、常に注意を払い、必要に応じ、医師 の専門的見地からの診療等を受けさせるなど、慎重な配慮がなされており、このような判断をも踏まえて、心神喪失の状態にあると判断された場合には、死刑の執行を停止することとなる。

 

D 意見

1、政府報告は死刑囚の処遇の実態を反映していない

政府報告は「心情の安定に資する(パラ107)」処遇を行っていること、「死刑の言い渡しを受けた者が心神喪失の状態にあるときは…執行を停止すると規定」しており、「必要に応じ、医師の専門的見地からの診療を受けさせるなど、慎重な配慮」が為されていると報告されている(パラ113)を報告している。

しかし、実際には異常に長期にわたる独居拘禁や外部交通の不当な制限など、当局の処 遇によって、死刑囚が精神異常に追い込まれているのが実態である。また、医療措置等も不透明な実態がある。「心神喪失」で死刑の執行が停止されるべき状況 があるにもかかわらず、その措置がとられていない。

2、名張毒ぶどう酒事件の奥西勝さんの場合

① 事実上、三度にわたり裁判所から示された有罪立証への疑い

1961年に発生して以降、本件は自白以外の証拠が脆弱なことから、下線部のように1964年無罪判決、2005年再審開始決定、2010年再審取り消し決定の破棄決定という形で、3度にわたり有罪立証への合理的疑いを裁判所から指摘されていながら、そのたびに、検察側が新たな主張を行い、死刑判決が維持されている。

事件発生以来、半世紀にわたり、無罪と死刑の間を翻弄されているという極めて深刻なケースである。

1961年( 3・28) 事件発生(逮捕、起訴)

1964年(12・23) 一審津地裁 「無罪」判決(釈放)

1969年( 9・10) 二審名古屋高裁 「死刑」判決(勾留)

1972年( 6・15) 三審最高裁 「上告棄却」決定(死刑確定)

※第5次請求から弁護人の支援を受けて再審請求。

2002年( 4・10) 第7次再審請求

2005年( 4・ 5) 名古屋高裁「再審開始」決定(死刑の執行停止)

2006年(12・26) 名古屋高裁「再審開始決定の破棄」決定

2010年( 4・ 5) 最高裁「(上記破棄決定の)破棄・差し戻し」決定

2012年( 5・25) 名古屋高裁差し戻し審「再審取り消し」決定(執行停止を破棄)

外部医療施設に移送(5・27)

八王子医療刑務所に移送(6・11)

2013年( 5・ 2) 一時、危篤。など重篤な状態。

② 再審取り消し決定後、重篤な状態の中、手錠をかけられる

奥西さん(87才)は2012年、食事の摂取が困難な状態が続いていたさなか、再審を取り消す決定を受け、その直後に体調が急変し、急遽、外部の病院に移送された。外部の病院では、鼻からの酸素吸入、抗生物質の点滴、導尿カテーテルの処置が行われた。そのような病状でベッドに横たわる奥西さんに対し、名古屋拘置所は右手首に手錠をかけ、それを捕縄につなぎ、刑務官の手首につなぐという非人道的扱いを行った。奥西さんは苦痛を訴え、弁護人、支援者が抗議したが、6月に八王子医療刑務所へ移送されるまで改善されることはなかった。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は第78条で「被収容者を護送する場合」に手錠の使用を認めているが、名古屋拘置所は「拘置所を出てから戻るまでが『護送』に当たる」として非人道的な扱いを正当化している。

3、袴田事件の袴田巌さんの場合

①世界で最も長く収容されている死刑囚

1966年の放火殺人事件で逮捕された袴田さんの収容は今年で47年間となり、「世界で最も長く収容されている死刑囚」としてギネス世界記録に認定されているほどである。

②精神疾患と外部交通―長期にわたる独居拘禁と重症の拘禁症

袴田さんは1980年に死刑判決が確定してから言動が異常になり、「本人が拒否している」という理由で長期にわたり、親族の面会も許可されずに、独居拘禁 された。その後、直接面会した3人の医師によって「拘禁症」または拘禁状態を背景とする「妄想性障害」と診断されている。しかし、東京拘置所は治療が必要 な病状は存在しないとして、袴田さんの医療を受ける権利を侵害している。また、「心神喪失」による死刑の執行停止措置もとられていない。現在では認知症と 糖尿も併発した疑いがもたれており、実姉の秀子さんが成人後見人就任の申立てをしたが東京家裁は却下し、高裁に即時抗告している。

 

Ⅲ・死刑確定者の処遇等について② (10条)

A 結論と提言

名張毒ぶどう酒事件の奥西勝さんは、再審請求に関して、弁護人との秘密接見が保障されていない。また、再審請求をたたかっている死刑確定囚とその支援者とが面会できず、手紙のやり取りや差し入れも禁止されている実態がある。したがって、自由権規約委員会が、以下のような勧告を出すことを提言する。

1、再審請求に関して弁護人がいる場合、弁護人と死刑確定者が刑務官の立会なしに接見できる権利が確保されるようにするべきである。

2、再審請求に関して支援者がいる場合、支援者と死刑確定者が面会する権利、手紙をやりとりする権利、差し入れの権利が保障されるようにするべきである。

 

B 規約人権委員会の懸念事項・勧告

2008年の第5回日本政府報告審査総括所見パラ17で言及。

17. 委員会は、上訴権を行使しないまま、死刑の宣告を受ける被告人の数が増加していること、裁判所が再審開始を決定するまでは再審請求を担当する弁護士と死刑 確定者との面会に刑務官が立ち会い、監視すること、及び再審請求あるいは恩赦請求が死刑執行の停止に影響を及ぼさないことにも懸念をもって留意する。(第 6条、第14条)

締約国は、死刑事件について義務的再審査制度(mandatory system of review)を採用し,死刑事件の再審又は恩赦請求が執行停止の効力を持つことを確保すべきである。執行停止の乱用を防止するために恩赦請求の回数に制 限を設けることはありうる。また締約国は、死刑確定者と再審に関する弁護士との間の全ての面会の厳格な秘密性についても保証すべきである。

 

C 政府の対応と第6回日本政府報告書の記述

なし

 

D 意見

名張毒ぶどう酒事件の奥西勝さんの場合、再審開始決定が取り消された2012年以降、再審請求人という訴訟の当事者であるにもかかわらず、奥西さんと弁護人との接見には立会がついており、秘密交通は保障されていない。

第6 回政府報告(パラ109)は、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律では、死刑確定者の外部交通を、①親族、②重大な利害に係る用務の処理のた めの面会又は信書の発受をすることが必要な者、③心情の安定に資すると認められる者については原則として許すこと」としていると報告されている。ところ が、法の記述とは反対に、再審請求という、もっとも重大な利害にかかわる用務を物質的、精神的、その他、あらゆる面で支えている支援者の面会は、原則禁止 とされており、面会許可を得ているのは数名である(現在は実質1名)。

 

 

Ⅳ・代用監獄システムと証拠開示について (10条)

 

A 結論と提言

代用監 獄を利用した自白を得るための取調べが依然として横行している実態を踏まえ、日本政府に対して前回総括所見パラ18における勧告を再度行っていただきた い。とくに、被疑者・被告人、弁護人がすべての関係証拠にアクセスできる権利を保障するため全面的証拠開示の制度を採用するよう強く勧告していただきた い。(第7条、第9条、第10条、第14条関連)

 

B 自由権規約委員会の懸念事項・勧告内容 (2008年10月総括所見)

2008年の第5回日本政府報告審査総括所見パラ18

18. 委員会は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の下で、警察では正式に捜査と留置の機能が分離されているにもかかわらず、代替収容制度(代用監 獄)の下では、捜査の便宜のため被疑者を最長23日間警察の留置施設に留置することが可能であり、保釈の可能性がないこと及び特に逮捕後最初の72時間は 弁護士との接見が制限されており、自白を得る目的で長期にわたる取調べや取調べの乱用が行われる危険性が増すことについての懸念を再度表明する。(第7 条、第9条、第10条及び第14条)

締 約国は、代替収容制度を廃止するか、規約第14条に規定される全ての保障の完全な遵守を確保するべきである。また、締約国は、全ての被疑者に対して、取調 べ中も含めて、弁護士と秘密裏に接見できる権利、嫌疑のある犯罪の種類にかかわらず逮捕された瞬間から法的援助にアクセスできる権利、及び、診療記録を含 む事件に関係する全ての警察の記録にアクセスできる権利が保障されることを確保するべきである。また、締約国は、起訴前保釈制度を導入すべきである。

 

C 政府の対応と第6回政府報告書(2012年4月)の記載

政府報 告及び第5回総括所見に対する日本政府コメントにおいて、①代用監獄への勾留は十分な司法審査を経ている。②警察でも捜査と留置の分離を徹底して人権に配 慮し、また、留置施設視察委員会や不服申立ての制度を整備し、運用している。③証拠開示については公判前整理手続きの導入により被告人の防御の準備のため に証拠が開示されることとなった、としている。

 

D 意見

1、代 用監獄への勾留は十分な司法審査を経ているとは到底言えない。司法審査はほとんど機能していない。逮捕された被疑者が裁判所に勾留請求をされた場合、請求 が却下される割合はわずか1%である。検察官の意見書と法廷に提出されない捜査報告書などの疎明資料によって「罪証隠滅のおそれ」があるとされ、20日間 の身柄拘束が裁判所によって認められることが常態化している。長期の身体拘束が虚偽自白の温床となっており、「人質司法」と呼ばれ、非難されている。とく に、痴漢事件などで逮捕されたサラリーマンは、20日間の勾留によって失職する危険に直面するため、やってもいない罪を認めるケースが多いといわれてい る。

2、証 拠開示は全く不十分である。改正刑訴法においても、証拠開示はあくまで検察官の判断に基づく制限的なものにとどまっている。被告人・弁護人には依然として 検察官手持ち証拠のリストさえ開示されない。特に、再審請求審では、改正刑訴法の規定の適用すらないとされ、検察・裁判所の裁量にまかされている。

2011年、2012年と相次いで再審無罪が確定した布川事件[3]、東電OL殺人事件では、被告人の無実を証明する証拠が隠されていたことが判明している。

布川事件では、①事件当時、現場付近で被告人らではない別人を見たという目撃証言、②「扼殺した」との被告人らの自白と矛盾する「絞殺」を示す死体検案書、③現場から採取された毛髪について、被告人らのものは1本もなく、被害者とある特定人(犯人と思われる人物)の毛髪だけが採取されていた事実、などの無罪方向での証拠が30年以上、隠されてきた。

東電OL殺人事件[4]で は、1997年3月19日の事件発覚から2週間後、4月3日の科捜研鑑定で、被害者の体表に付着していた犯人のものと思われる唾液の血液型がO型であると 特定された。5月20日に逮捕された被疑者の血液型はB型であり、捜査機関は当初から被疑者が真犯人ではないことを知りうる立場にあった。この鑑定も15 年に渡って隠されてきた。

2010 年9月には、大阪地検特捜部の検事が証拠物件のフロッピーディスクを改ざんする事件を起こし、日本社会に衝撃を与えた。だが、これは一検察官による偶発的 事件ではなく、検察組織の体質のあらわれである。上述したように、検察・警察は、「被疑者・被告人を有罪にするためには何をやっても構わない」という姿勢 で、税金で集めた証拠物を検察官の「所有物」でもあるかのように扱い、改ざん・捏造し、無罪につながる証拠を隠すことが常態化している。

 

 

Ⅴ・取調べと虚偽自白

 

A 結論と提言

日本政府に対して前回総括所見パラ19における勧告を再度行っていただきたい。(第7条、第9条、第14条関連)

 

B 自由権規約委員会の懸念事項・勧告内容 (2008年10月総括所見)

2008年の第5回日本政府報告審査総括所見パラ19

19. 委員会は、警察の内部規範で定められている被疑者取調べの時間制限が不十分であること、真実を明らかにするよう被疑者を説得するという取調べの機能を阻害 するとの理由で取調べにおける弁護人の立会いが認められていないこと、及び、取調べの電子的な監視の手法が散発的及び選択的に行われ、しばしば被疑者の自 白を記録することに限定されていることを懸念をもって留意する。また、委員会は、主に自白に基づく有罪率が極めて高いことに懸念を再度表明する。この懸念 は、このような有罪判決の中に死刑が含まれることで更に強くなる。(第7条、第9条及び第14条)

締 約国は、虚偽の自白を防止し、規約第14条に定められている被疑者の権利を確保するため、取調べの厳格な時間制限や法律を遵守しない行為への制裁につき規 定する立法措置を取るとともに、取調べの全過程について体系的に録音・録画し、さらに全ての被疑者に、弁護人が取調べに立ち会う権利を保障すべきである。 また、締約国は、犯罪捜査における警察の役割は、真実を発見することより、公判のための証拠を収集することであることを認識し、被疑者の黙秘が有罪である ことを示すものではないことを確認し、警察の取調べにおいてなされた自白よりも現代的な科学的証拠に依拠するよう、裁判所に働きかけるべきである。

 

C 政府の対応と第6回政府報告書(2012年4月)の記載

警察・検察それぞれにおいて取調べ適正化の指針をつくり、監督の強化、取調べ時間の管理について内部規則を定めるなどの対策を講じている。取調べの録音・録画については段階的に進めつつ、法制審議会で制度の導入について審議が行われている、と述べている。

 

D 意見

1、内部規則はあくまで内部の者によるチェックに過ぎず、虚偽自白を防止するための措置にはまったくなりえない。

最近、 社会的な注目を集めた虚偽自白の事例としてパソコン遠隔操作事件がある。2012年6月から9月にかけて、他人が所有するパソコンをコンピューターウイル スに感染させ、所有者が知らない間に殺人、爆破、襲撃などの犯行予告をウェブサイト上やメールで行う脅迫事件が相次いで発生した。一連の事件で4人の男性 が逮捕されたが、10月に真犯人から犯行声明のメールがマスコミ等に送られて真相が明らかとなり、警察庁が男性4人の誤認逮捕を認めるに至った。

重要なことは4人のうち2人が虚偽の自白に追い込まれたことである。供述調書ではありもしない「動機」まで解明されている。1人(19歳の少年)は真犯人と捜査当局しか知りえない、犯行に使われたハンドルネームを供述しており、取調べに誘導があったことは明らかである。

2、検 察官自身が任意性に問題のある自白調書を作成していることを裏付ける統計結果がある。前述の大阪地検特捜部の証拠改ざん事件後に行われた検察官意識調査で ある。2011年3月、最高検察庁は、1444人の全検事に対するアンケート結果を公表したが、その中には以下のように上司の指示に反対できず、任意性に 問題ある調書を作成している実態が示されている。

「被疑者の供述と異なる調書作成を上司から指示されたことがある」      26.1%

「任意性などの点で問題が生じかねない取り調べを見聞きした」      27.7%

「不正行為を内部告発したり幹部に直訴したりした人は人事で不利になると感じる」 22.8%

この数字は、検察官による自白強要が相当数おこなわれていることを裏付けるものである。

3、警 察における取調べの可視化は、裁判員裁判対象事件を中心に「取調べ機能を損なわない範囲内」で「捜査上又は立証上相当と認められる場面を適切に選択」して 試行されているもので、自白した被疑者に調書を読み聞かせ、被疑者が署名する場面を録画するなどの一部可視化にとどまっており、かえって自白が任意に行わ れたように印象付ける危険がある。

検察においても、裁判員裁判対象事件2,465件中、全過程が録画されたのは399件(16%)にとどまっている(最高検「検察における取調べの録音・録画についての検証」2012年7月)。

4、法 制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」においては、①裁判員裁判対象事件を念頭に全過程の可視化を原則とする案と②可視化を取調官の裁量にゆだねる案 の2つの案が並列して議論されている。最近の作業部会の「たたき台」で①の全過程可視化案に対し、「捜査に著しい支障が生じる恐れがある」ときは取調官の 判断で可視化を中止できるなど、多数の例外規定が提案され、骨抜きにされる危険が高まっている。

なお、同特別部会で警察の幹部は全過程の録音・録画に反対して次のように興味深い発言をしている。

「特 に取調べ全過程の録音・録画については問題が大きいと考えておりますが,実際に現場の立場で3点ほどお話をしたいと思います。第一に取調官と被疑者との間 で率直なやり取りができなくなるということで,真実の供述を得ることが困難になるという問題があります。人は自分に不利なことは話したくないものであり, 自分の犯した罪を正直に話せば死刑等の重罰を受ける可能性があればなおさらだと思います。犯罪を犯した被疑者から真実の供述を得るためにはその良心に訴え ることが重要でありますけれども,なかなか容易なことではありません。取調官は犯行そのものだけではなく,被疑者にとって大切な家族のことから生い立ち, 犯行の背景になった不幸な経験,悩み等に至るまで自分自身の経験等も織り交ぜて被疑者に問い掛けていきます。その中で被疑者の表情とか,あるいはしぐさか ら必死になって隠している本当の感情の動きを読み取り琴線を探っていくというわけであります。こうした過程を経て被疑者は次第に心情を吐露するようにな り,刑罰への恐怖や不安を乗り越えて心を開き,己しか知り得ない事実をも話し始めるものでありますが,カメラの前では互いのプライバシーをさらけ出して被 疑者と取調官が心を通い合わせることは到底不可能ではないかと考えております」(2011年7月、第2回会議での岩瀬・警視庁副総監の発言)

被疑者を「弱らせて」自白を獲得する方法を示したことで有名な愛媛県警の「被疑者取調べ要領」は、例えば「被疑者をよく知れ。被疑者の生い立ち、性格、知能程度、家庭環境、家庭状況、身上、趣味などできる限り把握しておく」「被疑者の心を早く読取れ (読心術を身につける)」「親身に相手の話を聞いてやることも必要」「取調官も裸になれ。生い立ち、学校生活、私生活等、裸になった話をすることで同じ人 間であることの共感をもつ」といった手法をしめしている。上記の発言は、科学的、客観的な証拠によるのではなく、被疑者と取調べ官の「人間関係」によって 「真実の供述」に迫るという伝統的な手法に警察組織が固執していることを示している。

5、裁判でも自白に依拠した有罪判決が行われている。以下にその実例を挙げる。

足利事件の場合

1990年に発生した幼女誘拐殺害事件の容疑者として菅家利和さんが逮捕起訴された事件(わいせつ誘拐・殺人・死体遺棄罪・無期懲役刑)で、捜査機関は、当時、技術的に未確立で、間違ったDNA型鑑定を活用して菅家さんから虚偽自白を獲得し、確定判決は、自白にもとづき、自白を支える補強証拠として間違ったDNA型鑑定を利用した。

2002年に再審請求を申し立て、あらためて行われたDNA 鑑定で、真犯人のものとされる体液由来のDNA型と菅家さんのDNA型が一致しないことが明らかとなった。検察側もこれを認め、再審開始決定前に刑の執行 を停止して釈放し、さらに検察側が無罪の論告を行って2010年、再審無罪が確定した。再審無罪判決は、自白の内容が虚偽であったことを明確に指摘した。

袴田事件の場合

現在、第二次再審請求を行っているが、一審で有罪判決を書いた熊本典道・元裁判官が判決から38年目の2007年、無実と思いながら死刑判決を書いたことを、涙を流して告白し、テレビの報道番組が大きく報じた。

熊本裁 判官の告白(要旨)「自分はこの事件の主任を務めたが、検察側が提出した物証に改竄、捏造の疑いをもっており、袴田さんは無実と確信していた。しかし、先 輩裁判官を説得できず2対1の多数決で敗れ、やむなく死刑判決を書いた。無実の人に死刑を言い渡さねばならない憤りを、せめて何らかの形で伝えたくて、判 決文のなかで「自白の獲得に汲々として、物的証拠に関する捜査を怠った」「適正手続きの保障という見地からも…反省されなければならない」と、付言した。 しかし、悔いが残り、その後、裁判官を辞めざるを得なかった。やり場のない気持ちはどうしようもなく、このことを思い出さない日は一日たりともない。自分 の家庭も崩壊した」

二審も、犯行時に履いていたとされるズボンはサイズが小さく袴田さんにははけないことを実験で確認しながら、自白を根拠に有罪とした。

名張毒ぶどう酒事件の場合

第7次再審請求で、いったんは再審開始決定を受けたが、検察の異議申し立てによって2006年、決定が取り消された。この取り消し決定は次のようにのべ、自ら自白を拠り所としていることを吐露している。

「自白した犯罪は当然極刑が予測される重大殺人事件であり、いくら、その場の苦痛から逃れたいと考えたとしても、そう易々とうその自白をするとは考えにくい。」(第7次再審請求異議審決定、2006年12月26日、名古屋高裁)

 

Ⅵ・市民・労働者に対する思想調査・プライバシー侵害等 (18条)

 

A 結論と提言

2012年、大阪市は橋本徹市長の業務命令として全職員約3万人に対して「労使関係に関する職員のアンケート調査」を実施した。このアンケート調査は、市 職員の自己の思想、信条はもとより、交遊関係や他人の政治的立場など、広範なプライバシーの告白を強制するものであり、それにより、市職員に著しい精神的 苦痛を与えたものであり、規約18条をはじめ、7条、17条、19条に違反する

2004年に、イラクへの自衛隊派兵に反対するデモや集会などを「反自衛隊活動」として、当時の陸上自衛隊情報保全隊が違法に監視し情報収集していたことが、日本共産党が公表した「内部文書」で発覚した。今も続けられている、この自衛隊による市民運動の監視は、反自衛隊活動を監視するとの名目で、市民によるほとんど全てのデモや集会を監視の対象としたものであり、規約17条、18条、19条、21条、22条等に違反する

ついては、以下の勧告を求めたい。

市民・労働者に対する思想調査や市民のデモや集会を監視し情報収集する行為は、規約に違反する。国や大阪市は、被害者に謝罪し、再発防止のために必要な措置をとるべきである。自衛隊による市民運動の監視については直ちに中止すべきである。

 

B 規約人権委員会の懸念事項・勧告

なし

 

C 政府の対応と第6回日本政府報告書の記述

なし

 

D 事実関係

 

事例1 大阪市思想調査アンケート

2013年3月25日、大阪府労働委員会が「不当労働行為」と認定している。現在、このアンケートで精神的な苦痛を受けたとして、職員(一部元職員)ら55名が、大阪市に対し損害賠償を求める訴訟を提起して係争中である。

1、アンケート対象者、回答方法、期間

大阪市総務局長発、各所属長宛の指示文書によると以下のとおりである。

調査対象 大阪市職員(※非常勤嘱託職員等、一部例外を除く)

回答方法 回答者は氏名、職員番号、所属部署、職種、職員区分と設問への回答欄に記入して、庁内ポータルサイトを使用して回答する方式。

調査期間 同年2月10日(金)~16日(木)である。

2、業務命令としてのアンケート

上記年月日付で発布された橋本徹大阪市長から市職員に宛てた「アンケート調査について」と題された文書には以下の記述がある。

「このアンケート調査は、任意の調査ではありません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な解答がなされない場合には処分の対象となりえます」

この点について、原告は「業務命令・処分・免職、などの言葉に強い圧迫感を受けた」と、精神的苦痛の大きさを訴えている。

3、設問の問題点

1)組合活動、政治活動への参加の告白を強要

アンケートには、以下の設問が含まれている。

Q6 あなたは、これまで大阪市役所の組合が行う労働条件に関する組合活動に参加したことがありますか(現在組合に加入していない方も過去の経験でお答えください)。

Q7 あなたは、この2年間、特定の政治家を応援する活動(求めに応じて、知り合いの住所等を知らせたり、街頭演説を聞いたりする活動も含む。)に参加したことがありますか(組合加入の有無を問わず全員お答えください)。

Q8 あなたは、この2年間、職場の関係者から、特定の政治家に投票するよう要請されたことはありますか(組合加入の有無を問わず全員お答えください)。

2)活動に誘った人の密告を奨励

上記、設問への解答欄には、いずれも、次の回答欄が設けられている。

① 参加した場合、自分の意思で参加したか、誘われて参加したか

② 誘われて参加した場合、誰に誘われたか

これらの設問によって、例えば、A氏が「自分は活動に参加していない」と回答しても、B氏が「A氏に誘われた」と回答すれば、真実でないことが分かる。

また、各設問には、以下の記述があり、通報窓口が設定されている。

「誘った人の氏名は、回答いただかなくても構いません。末尾に記載した通報窓口に無記名で情報提供していただくことも可能です。」

通報窓口は「大阪市通報窓口 弁護士 野村修也」(所在地東京都)と設定され、郵送、ファックス、メールによる宛先が記載されている。

3)職場における会話の調査

その他、氏名・属性に関する5項目を含め全21項目の設問があり、その中には以下の設問も含む。

Q12「この2年間、職場において選挙のことが話題になったことはありますか(複数回答可。組合加入の有無を問わず全員お答えください)。また、その話題の中であなたへの投票以来の意図を感じたことはありますか。」

事例2 自衛隊による市民運動の監視(及び監視差止訴訟)

1、事案の概要―イラク派兵反対運動の情報収集

監視の被害を受けたとして、市民107人が監視差止めを求めて提訴。国側は監視の事実や「内部文書」の存在すら認めなかったが、一審仙台地裁は、情報保全 隊が情報収集をして文書を作成したことを認め違法と判断。原告5人に慰謝料の支払いを命じた。しかし、監視行為の差止めは認めず、双方が控訴している。

2、保全隊長の証言―あらゆる市民運動、労働運動は監視の対象

問題となっている03年~04年当時、陸上自衛隊情報保全隊長をしていた鈴木健氏は、控訴審で原告代理人の質問に対して本件にかかわることは「証言できない」とくり返したが、「一般論として」と断りながら、以下の場合は自衛隊の情報収集の対象に「なりうる」と答えた。

・市外でのイラク戦争反対、・イラク戦争反対の屋内集会

・核兵器廃絶の署名活動

・春闘の街頭宣伝活動

・駐屯地への騒音の苦情電話

 

 

(報告)

Ⅶ・言論表現の自由 (19条) ―貴委員会に対する特別の感謝を込めて―

 

A 規約人権委員会の懸念事項・勧告

2008年の第5回日本政府報告審査総括所見パラ26

26. 委員会は、公職選挙法の下での戸別訪問の禁止、選挙運動期間前に配布可能な文書図画への制限などの表現の自由及び参政権に対して課された非合理的な制約に つき懸念を有する。委員会は、政治活動家と公務員が、私人の郵便箱に政府に批判的な内容のリーフレットを配布したことで、不法侵入についての法律や国家公 務員法の下で逮捕、起訴されたとの報告についても懸念する(第19条及び第25条)。

締約国は、規約第19条及び第25条の下で保護されている政治活動及び他の活動を、警察、検察官及び裁判所が過度に制約しないように、表現の自由と参政権に対して課されたいかなる非合理的な法律上の制約をも廃止すべきである。

 

B 第6回日本政府報告書の記述

(第6回日本政府報告書の記述)

パラ266~267

2.国家公務員の政治的行為の制限

216. 国家公務員についても、日本国憲法が保障する表現の自由が認められているが、現在、国家公務員法及び人事院規則14-7において、政治的中立性を損なうお それのある政治的行為は制限されているところであり、特定の候補者や特定の政党に対する支持・不支持を目的とした戸別訪問や政治的目的を有する文書・図画 の配布は、政治的行為の制限に抵触する行為と考えられる。この制限は、国家公務員法及びその委任に基づく人事院規則により、国民全体の奉仕者として行政の 運営に携わる国家公務員の政治的中立性を維持するために設けられた必要最小限度の制約であることから、本規約に違反するものではないと考えている。

なお、1974年の最高裁判決において、政治的目的を有する文書を掲示・配布する行為を禁止することについては、合理的で必要やむを得ない制限である場合は、憲法上許容されると判示されている。

 

C 報告

規約人権委員会の2008年総括所見における「懸念と勧告」が国内活用され、最高裁判決において前例のない無罪が言い渡され、これが確定し、人権の前進が図られたので報告する。

 

総括所見における懸念と勧告

2008年第5回自由権規約第5回政府報告の審査後に公表された規約人権委員会の懸念と勧告(パラ26)の内容は、「政治活動を行ったものや公務員が、政 府を批判する内容のビラを個人の郵便受けに配布したことにより、住居侵入罪あるいは国家公務員法で逮捕され、起訴される報告に関して懸念を抱く。締約国 は、規約第19条及び25条で保障されている政治運動やその他の活動を、警察や検察官、そして裁判所が不当に制限することを防ぐために、表現の自由や公的 な活動に参加する権利を不合理に制限している法律を撤回すべきである」と云うものであった。固有名詞こそ出してはいないが、これが当時裁判で闘われていた 国公法弾圧堀越事件や世田谷国公法弾圧事件、葛飾ビラ配布弾圧事件、立川反戦ビラ事件、大分大石市議公選法弾圧事件を指していることは明らかである。

 

言論弾圧事件の頻発と裁判所の態度

2004年と翌2005年には、国公法弾圧堀越事件(2004年3月)、世田谷国公法弾圧事件(2005年9月)の国公法弾圧事件の外にもイラク派兵反対 のビラを自衛隊官舎に配って住居侵入罪で逮捕・起訴された立川自衛隊反戦ビラ事件(2004年2月)、日本共産党の議会報告のビラをマンションに配って住 居侵入罪で逮捕・起訴された葛飾ビラ配布弾圧事件(2004年12月)と、言論弾圧事件が連続して発生していた。

アメ リカがイラク攻撃を始めたことをきっかけに当時の小泉政権のもと、自衛隊のイラク派兵が行われ、次の安倍内閣が改憲手続法を成立させて、9条(平和主義) などの改憲の動きが強まっていた。この中で、イラク派兵、改憲に反対する人々が、自分たちの意見を国民に伝え、その支持を得るために住宅にビラを配布した ところ、これを敵視した警視庁の公安警察が検察機関等と相談しながら、こうした人々を逮捕し、起訴したのがこれらの事件であった。立川自衛隊反戦ビラ事件 及び葛飾ビラ配布事件は一審で無罪を勝ち取ったが、高裁・最高裁ではいずれも有罪となった。他方、国家公務員が政治的な内容のビラを配ったことで、国家公 務員法違反に問われた、堀越事件及び世田谷事件ではいずれも一審は有罪であった。公職選挙法違反を問われた大分大石事件は最高裁まで有罪は動かなかった。

しか し、堀越事件高裁段階で、先の「懸念と勧告」が法廷に持ち込まれ、弁論に活用された。弁護団はこのような言論表現の自由に対する弾圧は自由権規約に違反す ること、自由権規約委員会においても、前述の「懸念と勧告」が表明されていることを紹介し、これがまさに世界の人権基準だと主張した。

 

40年も公務員の政治的行為を縛ってきた猿払事件最高裁判決

とこ ろで国家公務員法は国家公務員のほとんどすべての政治活動を禁止しており、その制限は勤務時間外にも及ぶと規定されている。しかし、前述の国家公務員法違 反2事件の被告人は、「公務員」の身分を示すことなく、勤務時間外に職場とは無関係の場所で、普段着姿でビラを配ったにすぎない。誰も彼らの行為が公務員 のそれとは思わず、また目撃しても一市民の行動としか映らず、何の混乱も起こらなかった。

しか しながら国家公務員の政治活動については憲法21条違反ではないとする最高裁判決(1974年、いわゆる猿払事件と呼ばれる)がある。この判決はこれまで 余りの不評さゆえ国家公務員法の政治的行為禁止規定を使っての起訴はなかったとはいえ、その論理はこれまで40年に亘って、日本の公務員の言論表現の自由 を規制してきた。少し長くなるが判決を紹介しよう。

ま ず、判決は公務員の政治活動を規制する必要性、つまり規制の目的について、「もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員 の政治的中立性が損なわれる。ためにその職務の遂行ひいてはその属する行政機関の公務の運営に党派的変更を招く恐れがある。その結果、行政の中立的運営に 対する国民の信頼が損なわれることを免れない」、「公務員の党派的偏向は、逆に政治的党派の行政への不当な介入を容易にする。その結果、行政の中立的運営 が歪められる可能性が一層増大する。それだけでなく、そのような傾向が拡大すれば、本来政治的中立を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき責務を負う 行政組織の内部に深刻な政治的対立を醸成する。それによって行政の能率的で安定した運営は阻害され、ひいては議会制民主主義の政治過程を経て決定された国 の政策の忠実な遂行にも重大な支障をきたす恐れがある」「このような弊害の発生を防止し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するため、公務 員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請にこたえ、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置に 他ならない」という。そして、この判決は、この規制によって公務員の政治参加の利益が失われるけれども、「禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立 性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保すると云う国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに 重要なものと云うべき」だと結論づける。

これは公務員の表現の自由(政治参加の自由)よりも公務員の政治的中立性と云う国家利益を重く見る、規制する側の利益を優先するということに他ならない。

前述の国公法2事件の逮捕及び起訴はこの猿払最高裁判決から実に30数年ぶりのことであった。公安警察が人々の言論活動を抑圧するために、倉庫に眠っていた古い判決のほこりをはたいて持ち出したのである。

 

風穴あけた2008年の総括所見に感謝

今 回、被告人を無罪とした堀越事件高裁判決は、憲法21条が保障する表現の自由は、民主主義の基礎をおおもとから支えるものだということから説きおこしてい る。この自由が制限されると、国民の意思に基づいて国政を決めると云う民主政治そのものが危うくなるからであるというのである。そして判決は、政治活動な いし政治的行為の自由は、国家公務員についても可能な限り保障されなければならないとしている。こうした見方に立ったうえで判決は、裁量の余地のない仕事 に就き、管理職でもない堀越さんが、休日に勤務先やその仕事と関係なく、郵便受けに政党機関紙などを配っても、行政の中立に対する国民の信頼を危うくする 可能性は全くないとして、無罪を言い渡したのである。

この堀越事件高裁判決には自由権規約委員会の「懸念と勧告」が影響を与えている。

判決 は「そこで、そのような国民の法意識の変化を推し量る時代の進展や政治的、社会的状況の変動をみると、猿払事件判決以降今日まで、わが国においては、民主 主義はより成熟して、着実に根付き、その表れとして、国民の知る権利との関連でいわゆる情報公開法が制定され、或いは、インターネットに見られるように、 情報化社会が顕著に進展し、非民主的国家における言論の自由の制限等の情報にも日々接触する中で、国民は、民主主義を支えるものとして、表現の自由がとり わけ重要な権利である事に対する認識を一層深めてきている。さらに、国際的にはいわゆる冷戦状態が集結し、国内的には左右のイデオロギー対立という状況も 相当程度落ち着いたものとなっている。加えて、政治的、経済的、社会的なあらゆる場面においてグローバル化が進み、何事も世界標準と云った視点からみる必 要がある時代となってきていることも、国民は強く認識して生きているとみられる。このように国民の法意識は、後記のように、猿払事件判決当時とは異なり、 大きく変わったというべきであって、このことは、公務員、公務に対する国民の見方についても当てはまるとみるべきであろう」としている。

ここには弁護団が法廷で盛んに主張した先進諸外国の公務員の政治活動規制や自由権規約19条の解決基準を示した自由権規約委員会の「懸念と勧告」が色濃く反映している[5]。最高裁もこの正論とこれに対する世論・マスコミの支持に抗しきれず、無罪判決を維持した。言論・表現の自由をめぐる刑事事件で最高裁が無罪を言い渡した初めてのケースとなった。

国家 公務員の政治活動をがんじがらめにしていた国家公務員法とそれを無条件に肯定した猿払事件最高裁判決に大きな風穴があけられ、日本の言論表見の自由をめぐ る人権状況に大きな前進が見られたのである。自由権規約委員会の第5回審査後の総括所見が大いに役立ったケースとして、貴委員会の努力に敬意を表しつつ、 喜びを込めて、この報告をする。

 

Ⅷ・選挙・政治活動の自由侵害事例 (19条)

 

A 結論と提言

1、日本政府は、規約19条、25条に違反する公職選挙法の規定に基づく捜査・起訴等を直ちに中止すべきであり、そのために必要な措置をとるべきである。

2、日本政府は、規約19条、25条に違反する公職選挙法の規定を廃止すべきである。

 

B 規約人権委員会の懸念事項・勧告

2008年の第5回日本政府報告審査総括所見パラ26

ゼネラルコメント№34

 

C 政府の対応と第6回日本政府報告書の記述

第6回日本政府報告書の記述)

パラ261~265、313、314

1.公職選挙法の下での制限

215.戸別訪問による選挙運動の禁止及び選挙運動期間前の文書図画による選挙運動の禁止については、公職選挙法に規定されている。

戸 別訪問による選挙運動については、買収、利害誘導等の温床になりやすく、選挙人の生活の平穏を害する等の弊害があること、選挙運動期間前の文書図画による 選挙運動については、不当、無用な競争を招き不正行為の発生のおそれがあることや、経費や労力がかさみ経済力の差による不公平が生じる結果となり、選挙の 腐敗をも招くおそれがある等の弊害があることから制限されている。

これらの制限の目的は、専ら選挙の公正を確保することにあり、最高裁判所においても表現の自由を保障する日本国憲法第21条に違反するものではない、との判決が示されているところである。

このように、公職選挙法は、選挙の公正の確保のため、選挙運動の期間を限定し、可能な限り同一の条件の下で選挙運動が実施されるようその手段に一定のルールを設けている。政治活動については、選挙運動にわたらない限り、基本的には自由である。

なお、参政権については第25条参照。

 

第25条

248.これまでの報告のとおり。

なお、 公職選挙法における戸別訪問による選挙運動の禁止及び選挙運動期間前の文書図画による選挙運動の禁止の規定の趣旨については、第19条のとおりであり、こ れらの規定は専ら選挙の公正を確保することを目的とするもので、最高裁判所においても参政権を保障する日本国憲法第15条に違反するものではない、との判 決が示されているところである。

 

D 意見

貴委員 会が第5回審査で公選法の制限規定の撤回を勧告されたこと、ゼネラルコメント34で解釈基準を示されたことは、自由な選挙を求めている日本の市民に大きな 勇気と希望を与えた。しかし、依然として、正当な選挙活動を行ったことに対して公職選挙法違反として捜査・逮捕、起訴、有罪判決が出されている(下記の実 例参照)。

また、 本規約が日本国内で効力を持つこと、ゼネラルコメント34でも日本の言論規制は規約適合性に問題があるという解釈基準が示されたことを警察、検察、裁判所 に対して示しても、ほとんど知られておらず、多くの選挙運動員は依然として恐怖を感じながら選挙・政治活動に参加している。

したがって、「 A 結論と提言」のような勧告を求める。

《実例》

事例1 加古川市・井筒市会議員のケース:文書の郵送

無所 属の市会議員井筒義照(よしてる)氏が2008年、衆議院選挙で、支持者等に自分が国政では政権交代のために野党を支持している見解を表明した活動報告を 郵送したところ、公選法違反とされ逮捕、罰金50万円、公民権停止3年が確定。郵送作業の袋詰めを手伝っただけの井上恭子(やすこ)氏は夜間、怯える子ど もの目の前で逮捕・捜索され、罵倒され自白強要を受け、子どもの精神衛生にも多大な影響を与えた。本件では市民・市会議員、計6人逮捕・捜索。

事例2 神戸市・加藤寛治氏のケース:ポスターの掲示

2010年の参議院選挙中、交差点で一時間の宣伝をするため、ポスターを街路灯などにテープで留めようとした加藤寛治氏を公選法違反として逮捕。20日以上、勾留された。不起訴処分。

事例3 岐阜・笠松町のケース:文書の投函

2013年、岐阜県知事選挙中、後援会ニュースを後援会員や知人宅の郵便ポストに投函した町会議員が警察に連日、呼び出しされ、警察は約90世帯に聞き込みを行い、配布物(後援会ニュース)を回収。捜査は選挙期間中続き、市民の抗議のなか投票日の翌日に終結。

事例4 養父(やぶ)市のケース:文書の郵送

2012年の市議選挙で、元高校教諭有志の名で同校OB 宛に郵送された手紙に投票依頼があるとして公選法で元教諭3名に執拗な呼び出し、1名に家宅捜索、OB数十名に聞き込みが行われ、手紙を回収。郵便局へも 捜査。捜査は半年以上に及んで未だ継続中。呼び出し・捜索を受けている元教諭と家族らは、精神的に大きな苦痛を受けている。

 

 

Ⅸ・平和的な集会の自由 (21条)

 

A 結論と提言

首 都圏反原発連合日比谷公園使用不許可事件などで、自由権規約21条が保障している平和的な集会の自由が侵害されている実態がある。また、日教組全体集会ホ テル使用拒否事件などで、私人間においてではあるが、反対勢力の行動を恐れてホテル等の施設を利用させないという事態があり、平和的な集会の自由が事実上 侵害されている実態がある。

したがって、自由権規約委員会が、以下のような勧告を出すことを提言する。

1、日本政府は、市民その他が平和的な集会を行うに際して、国や自治体が、自由権規約第21条で認められている制限事由以外の事由を理由とする公的施設の使用を許可しないということがないようにするために必要な措置をとるべきである。

2、日本政府は、市民その他が平和的な集会を行うに際して、ホテル等の私人が、その集会に反対する勢力の行動を恐れ、その集会主催者に、ホテル等民間の施設を貸し出さないというようなことがないように、警察などを使って必要な措置をとるべきである。

 

B 規約人権委員会の懸念事項・勧告

なし

 

C 政府の対応と第6回日本政府報告書の記述

(政府その他の対応)

1、公的施設の使用問題について

・首都圏反原発連合日比谷公園使用不許可事件

(東京都と裁判所の対応)2012年11 月11日に行うデモの出発点として東京・日比谷公園の一時使用許可を首都圏反原発連合(反原連)が東京都に求めたところ、2012年10月31日、東京都 は不許可決定を出した。そこで、反原連は、東京地裁に、東京都に日比谷公園の利用を仮に義務付ける決定を求めたが、東京地裁は、2012年11月2日、反 原連の申し立てを却下。即時抗告に対し、東京高裁は、同月5日、抗告棄却。

結果、反原連は、デモの出発点を明記できないこととなり、公安委員会のデモの許可を得ることができず、デモ行進は中止に追い込まれた。

この事態に対して、私たちの知る限りでは、政府は、何らの対策を講じていない。

2、反対勢力の行動に配慮してのホテル等の利用拒否問題について

・日教組全体集会ホテル使用拒否事件

(裁 判所・政府の対応)2008年2月2日と3日の2日間、グランドプリンスホテル新高輪で、日本教職員組合(日教組)の全体集会が予定され、ホテルはいった ん予約を受理したが、2007年11月になり、右翼団体の抗議活動による周辺住民への迷惑、特にこの日を中心に行われる入学試験に重大な影響を与えるおそ れがあるとして、受け入れ拒否に転じ、結局、予定されていた会場の使用を拒否した。日教組の訴えに、東京高等裁判所は、ホテルの契約解除通告に関して解約 の無効、そして使用させる義務があることを確認する仮処分命令を出したが、ホテル側は、それを無視した。

2 月18日に衆議院予算委員会における議員からの質問に対し、鳩山邦夫法務大臣は個別の案件についてではなく一般論であるとして、「いかなる紛争であれ、裁 判所が公正な審議を経た上で出した裁判、それを無視して、あえてこれに反する行動をとられる当事者がもしいらっしゃるとすれば、法治国家にあるまじき事態 である」との見解を示し、また、舛添要一厚生労働大臣は同ホテルが集会参加者の約190室分の予約を取り消したことについて、旅館業法に違反している疑い が濃厚だとの見解を示した。

プ リンスホテル側は使用拒否の理由として、高裁判決の仮処分命令が出たのは開催予定日の3日前であり、警察当局からの具体的な相談もないことから安全に集会 を開催することは困難であることなどをあげた。2008年8月、日教組は刑事告訴し、2009年3月17日、警視庁保安課は、旅館業法違反で、プリンスホ テルと社長ら幹部社員4人と、法人としての同社を書類送検したが、2010年7月、起訴猶予処分。

第6回日本政府報告書の記述)

「これまでの報告のとおり。」とあるのみ。

第5回日本政府報告書では、伝染病予防法の廃止に関する記述のみ。

第4回日本政府報告書では、「第3 回報告で述べたとおり、本条約に規定された権利は、憲法第21条第1項により保障されており、また、右権利に対する制限(破壊活動防止法第5条及び伝染病 予防法第19条第1項第3号等)も、本条に合致した必要最小限のものとなっている。」とあるのみで、いずれにしても、指摘事例の問題についての言及はな い。

 

D 意見

日本では、政府が直接的に集会の自由を認めないという事態は、ほとんど見られないが、地方自治体やホテルなど、集会の会場となる施設を管理する者により、使用不許可や使用拒否などされる事例が、近年、多く報道されている。

1、首都圏反原発連合日比谷公園使用不許可事件では、裁判所は、2度も使用不許可処分を支持している。その理由として、裁判所は、1万人のデモ隊が公園に入りきれないおそれがあること、反原連がデモを統率しきれない可能性があることをあげた。

し かし、反原連は、すでに内閣総理大臣官邸前での最高時20万人(2012年7月)のデモを整然と統率してきたこと、デモの出発点に過ぎない一時利用の許可 申請であるので、長時間多数の人が滞留することが予定されていないことを考えれば、裁判所の判断は不当と言わざるを得ない。

2、その他に、日本国憲法第9条を守ろうと結成された神奈川県箱根町の住民団体「箱根九条の会」が町施設を借りる際、グループ名を名乗らずに活動せざるを得なくなっているという事態も報告されている。

2005 年10月に、箱根九条の会を立ち上げた際に、記念集会を開くため箱根町の文化センターの使用を町教委に申請したところ、町教委は、護憲を訴えるチラシを配 ることも禁止し、チラシの点検を求め、「九条を守るというのは偏った考え。九条の会は政党に類する。一切、九条について参加者に訴えないで」と言ったとい う(これに対し、町教委は「事前チェックはしていない」と否定。「一方的な考えを強く主張するのはやめてほしいと伝えたまで」と説明)。同会は条件をの み、集会にはプログラムなどだけを持ち込み、九条について語らないことを参加者に説明した。以来、同会名では活動が制限されるとして、「箱根の会」名で施 設を借り続けている。だが、「箱根の会」名での催しでも問題が起きた。同会によると、2006年夏ごろ町社会教育センターに掲示した催しを告知するポス ターの「憲法九条が危ない情勢」との記載部分を、同センター側が紙で覆い隠した。当時のセンター所長は「内容が中立ではなかったため」と話している。

3、日教組全体集会ホテル使用拒否事件は、ホテルなど私人が集会会場の使用を拒否した例だが、私たちの知る限り、このようなことが起きないように政府が何らかの措置をとったということはない。

2 公正で独立した国内人権機関の設置を(第2条)

 

A 結論と提言

 

政府は、早急にパリ原則に従い、以下のような性質内容を有した国内人権救済機関の設置をすべきである。

(組織運営)

*予算、人事、運営について政府権力から独立していること

*市民やNGOと偏頗なく交流し、その意見を公正に反映させた運営、活動が可能であること

*既存の組織(法務省の人権擁護委員制度)の横滑り的活用ではない全く別の機構をつくること

(権能)

*公権力による人権侵害について、調査・勧告の権限をもつこと

*政策提言能力をもつこと

(内容)

*人権侵害の定義が明確になされること

*人権侵害の対象行為については、萎縮的効果をもたらすような過度に広汎な内容や曖昧な内容を含まないこと

(手続き)

*人権救済手続きにおいて適正手続きが保障されること

 

 

B 自由権規約委員会による総括所見(2008年10月)C項9号

 

「9 委員会は、締約国が未だ独立した国内人権施設を設立していないことを懸念する。(第2条)

締約国はパリ原則(総会決議48/134.付属文書)に従い、締約国により受け入れられた国際的な人権基準を網羅する広範な委任を行い、公権力による人権 侵害に対する訴えを検討し行動する能力を持った政府機関ではない独立した国内人権施設を設立せよ。また、この施設のために十分な財政的および人的資源を計 上せよ。」

 

 

C 第6回日本政府報告書(2012年4月)の記述

 

「第1部 一般的コメント

2 新たな人権救済機関の設置については、救済対象とすべき人権侵害の範囲、人権救済機関の独立性の担保方法、その調査権限の内容等について様々な議論があるため、現段階では、新たな人権救済制度に関する法案を再び国会に提出するには至っていない。

我が国としては、政府からの独立性を有する国内人権機構の創設を重要な課題と位置づけており、機構の創設に向けて、必要な準備を続けていきたいと考えている。」

 

 

D 意見

 

1 内閣は、2012年11月9日に、人権委員会設置法案を国会に提出した。しかし、1週間後の11月16日に国会(衆議院)が解散され、法案はたった7日間で廃案となった。

2012年法案は、2002年に人権擁護法案が提出され、2003年に廃案になって以来、ようやく10年ぶりに提出された国内人権機関設置に関する法案で あった。2003年に人権擁護法案が廃案になって7年間は、政府は国内人権機関設置について具体的な動きを示さなかった。ところが、2010年、2011 年と、法務省が人権救済機関設置問題についての中間報告や基本方針を発表し、日本国内では、これらの内容をめぐって賛否さまざまな意見が交わされた。そし て、2012年に法案が提出された。

しかし、法案が提出されたということで政府を評価することはできない。内容は以下のとおり問題があったからである。

 

3 2012年法案の内容は、なお以下の点が不十分であった。

(1)同和問題の残滓を感じさせる側面があること

ⅰ 法案2条1項は、「人権擁護の基本原則」として、「何人も、特定の者に対し、不当な差別虐待その他の人権を違法に侵害する行為をしてはならない。」と掲げ、「不当な差別その他」を最初に掲示している。

ⅱ また、法案2条2項は、差別助長目的、差別誘発目的で特定の行為をすることを禁じている。ここでも「差別」が念頭に置かれている。

ⅲ このように法案は、その主眼は差別禁止法案であって、人権侵害全般を対象とした法ではない、と理解せざるを得ない内容となっている。しかし、差別が第1位の人権侵害であるといった立法事実はどこにもない。

たとえば、2012年4月の第6回政府報告書には既存の人権擁護機関の人権侵犯事例の統計が挙げられているので見て欲しい。そこでは、暴行虐待22パー セント、住居生活の安全18パーセント、強制強要16パーセント、学校におけるいじめ13パーセントとなっている。差別事案の割合は上げられておらず、そ れは差別事案を第一に取り上げるだけの数はないことを物語っている。

ⅳ それにもかかわらず、法案が「不当な差別」「差別助長」「差別誘発」と差別を特に取り上げるのは、この法案が提出された背景に、差別問題に関する日本の特殊な不幸な過去があるからである、と推測せざるを得ない。

すなわち、かつて日本国内にも残されていた封建的差別の解消(以下、同和問題という)に関して、同和問題の名のもとにかえって人権侵害が繰り返されたと いう歴史的事実がある。同和問題については、その解消が必要なことは衆目の認めるところであった。それゆえ1969年以来特別立法が繰り返され、同和地区 及びその住民に対して、経済的優遇施策がとられ、生活環境の整備と人権啓発活動がなされてきた。それにより、同和地区及び住民の生活水準が向上し、差別意 識も改善されて、2002年3月に特別施策は終結した。

ところが、この過程において、一部の同和団体やその支援者が、市民のささいな行為を差別行為としてとりあげ、差別者の烙印をおし、差別したとされる者に 対して反省を迫るという名のもとに、暴力、監禁、侮辱、強要、いやがらせ、不利益取扱等の甚だしい人権侵害が繰り返されるという事態が生じた。

また、一部同和団体と行政が癒着して、地方行政の経済的な健全運営が長期にわたって妨げられた。

これが歴史的事実である。

この歴史的事実を経験した者が、法案が差別を第一の対象行為としているのを見ると、これは国内人権機関という枠組みで、かつての差別糾弾による人権侵害 が再来し、差別禁止の名の下に被差別者側の専横を正当化するものになるのではないか、という警戒感をぬぐい去ることができないのである。

ⅴ  そもそも、国内人権機関は国際的にはパリ原則による設置要求という経緯があるが、日本国内においてはそれだけではない。同和問題に関する特別施策の継続 を望む人々、すなわち2002年3月に特別施策が終結したことを快く思わず、行政からの利益を引き続き確保することを目的とする人々が、政治的圧力をかけ ることで、1996年に、同和問題に対する地域改善対策特定事業を一般対策としての人権教育啓発に再構成して推進するという内容の閣議決定を勝ち取ったの である。そして、その結果2002年の人権擁護法案が提出されたのである。

ⅵ そのため2002年の人権擁護法案もさまざまな問題点を持っていた。それゆえ、反対意見も強く、廃案となったのである。

ⅶ  このように、国内人権機関を日本において設置するためには、同和問題の弊害が再燃しないための工夫を内包した法律を作ることが不可欠である。差別問題を 第一とするのではなく、人権侵害全般を広く網羅しその解消を実現できる法律を作ることが必要である。人権擁護機関が人権侵害機関に転化しないために、過去 の苦い歴史から、警戒し、本当に望ましい人権擁護機関を設置することが大切なのである。

ⅷ しかるに2012年法案も前記のとおり同和問題の残滓への警戒を招くに十分であり、法案としては不十分であった。

政府は、同和問題と決別した法案を作るべきである。同和問題と決別した法案を作ったときには、国内人権機関が生まれる可能性は大きいのである。

ⅸ  規約人権委員会に対しては、国内人権機関がなかなか設置されない背景にある日本の歴史的事実への深い理解を求めたい。同和問題は行政の施策関与を必要と する時期を終えており、同和問題に関して政府の関与を求める勧告は、日本の同和問題の弊害の歴史を十分にふまえておらず不適切であると考える。

日本政府に対しては、同和問題との決別を助言し、国内人権機関の設置についても同和問題と決別していることが明示される形での法律を策定することを勧告していただきたい。

 

(2)2012年法案は、人権救済機関を法務省の外局として設置しており、政府から独立した機関とはいえない。しかも、法務省は、刑務所や拘置所を管轄する省であるがゆえに人権侵害が多発しがちな省であり、その省の外局というのでは制度の実効性にも懸念が生じるのである。

 

4 以 上のとおりであるから、政府が2012年法案を作ったことを、国内人権機関設置にむけて一定の努力したものと評価するのは尚早である。国内人権機関がなか なか生み出されない背景、すなわち、国民の中に根強く同和問題の弊害の再燃への懸念があること、を政府は理解している。理解しながら、同和問題への行政施 策の継続を求める勢力とも決別できず、結局のところ不十分な法案を作っている。政府は、同和問題とは決別して、パリ原則の理念をのみ重視して、国内人権機 関の設置へ向けて、努力してほしい。

そのための提言として前記Aを掲げた。

 

3 第一選択議定書の早期批准を

~個人通報制度の確立(2条3項)

 

A結論と提言

日本政府は自由権規約第一選択議定書を速やかに批准したうえ、個人通報制度を導入し、規約の国内実施を促進すべきである。

 

B規約人権委員会の懸念事項・勧告

日本政府の第5回報告に対する総括所見(懸念事項と勧告)をここに引用記載する。

 

C政府の対応と第5回政府報告書の記述

日本 政府はこれまで規約人権委員会の度重なる批准勧告に対し、不合理な理由を並べてこれに従わずに来た。この結果、自由権規約批准国156ヶ国の内選択議定書 については105ヶ国、実に68パーセント余り3分の2を超える国々がこれを批准している中で、人権先進国を唱える日本政府はあれこれの口実を設けてその 批准を遅らせているため規約の国内実施のうえで、すでに遅れを取り始めていると云える。

第6 回日本政府報告書は、「本規約第一選択議定書が定める個人通報制度については、本規約の実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度と認識してい る。同制度の受け入れに当たって、我が国の司法制度や立法政策との関連出の問題の有無、および個人通報制度を受け入れる場合の実施体制棟の検討課題につ き、政府部内で検討を行っており、2010年4月には、外務省内に人権条約履行質を立ち上げた。引き続き、各方面から寄せられる意見も踏まえつつ、同制度 の受け入れの是非につき真剣に検討を進めていく」としている。

4年前の第5回日本政府報告を改めて記述すると以下のとおりである。

「本 制度については我が国憲法の保障する司法権の独立を含め、司法制度との関連で問題が生じる虞があり、慎重に検討すべきであるとの指摘もあることから、本制 度の運用状況等をみつつ、その締結の是非につき真剣かつ慎重に検討しているところである。1999年12月以降、外務省及び法務省の関係部局が参加し、本 選択議定書に基づく個別具体的な事案をみつつ、個人通報制度が我が国に適用された場合の影響等について検討する研究会を定期的に開催している。

 

D日本政府が批准をためらう理由

前記の2回に亘る日本政府報告に共通する主張は以下のとおりである。

同制度は「司法権の独立を含め、司法制度との関連で問題が生じる恐れがある」「我が国の司法制度や立法政策との関連での問題の有無」ことから、その締結の是非につき「慎重に検討している。」

こ のため、「個別具体的な事案をみつつ、個人通報制度が我が国に適用された場合の影響について検討」、「個人通報制度を受け入れる場合の実施体制等の検討課 題につき、政府部内で検討」を行っている。このことを通じて云えることは、長期間にわたって受け入れの有無を検討しているというだけで、この間の目に見え た前進が見られない。私たちは個人通報制度の実現を求めて、日本政府の関係省庁(外務省、法務省)に度々申し入れをしているが、関係省庁の担当者は、個人 通報制度を受け入れるについて大きな反対意見は最早ないこと、受け入れのための準備は終了していると述べながら、受け入れた場合の国内法との整合性の問題 や政府内の人員・予算の問題、非英語圏である日本の翻訳作業による忙殺等の問題等に心配を残しているとも述べている。

3年前に政府交替した民主党はその政策において、個人通報制度の通報を掲げたが、先の衆議院選挙において政権を失ったためにその実現は遠のいた。

日本政府は、「司法権の独立を侵す恐れ」を表向きの理由としてきたが、実は日本の人権状況のなか、様々の自由権規約違反(とりわけ刑事司法においては代用 監獄、自白偏重などの点で世界標準からの大幅な遅れ)が個人通報で指摘され、規約違反だとして、これが正されることを恐れている。

そのことから、政権における政策面において個人通報受け入れの優先順位が著しく低いことが批准の遅れにつながっていると思われる。

 

E選択議定書批准の必要

最高 裁判所は、これまで、規約に違反する国内法を憲法に違反しないから規約にも違反しないとして、かばい続けてきた。こうした間違ったやり方を是正する最も有 効な手段として、第一選択議定書の批准を速やかに行い、具体的な事案において、自由権規約が国内において的確に実施される必要があるので、冒頭の提案を行 うものである。

なお、本報告を行う団体のひとつである国際人権活動日本委員会は傘下の団体や関連団体に呼び掛けて第一選択議定書批准促進を日本政府に求める団体署名活動を毎年行い、これまでに延べ22,915団体がこれに賛同している。

4 国連自由権規約に関する「第6回日本政府報告」に対するコメント

――第3条(男女平等の権利)について――

 

第6回日本政府報告は自由権規約第3条に関して、「男女共同参画社会の実現に向けた推進体制」を取り上げ、15の重点分野を掲げている。このカウンターレポートでは、そのなかの、③「男性、子どもにとっての男女共同参画」、④「雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保」、⑤「男女の仕事と生活の調和」の3項目に関係する事項について述べる。

2012 年10月24日に発表された「世界経済フォーラム」(World Economic Forum, WEF)の「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書」(The Global Gender Gap Report 2012)によると、日本は男女平等指数ランキングで135か国中101位であった。さまざまな社会活動のなかでもとくに経済活動への参加において日本女 性の地位が低いのは、日本人が企業中心・男性中心の働き方をしていることの反映である。

総務省の2011 年「社会生活基本調査」によれば、日本の正規労働者(full-time regular workers)の1週間当たりの週労働時間は男性53時間、女性44時間であった。欧米諸国の男性フルタイム労働者と比べると、日本人男性の労働時間 は、1週で10時間前後、1年で約500時間以上長い。またフルタイム労働者の場合、欧米諸国の女性の週労働時間は男性の0.90から0.95の範囲にあ るが、日本は0.83である。

総務省「労働力調査」の2010年で、フルタイム労働者とパートタイム労働者を合わせたデータを見ると、週労働時間は男性46時間、女性34時間で男女の労働時間差は12時間になる。この場合、女性の労働時間は男性の0.74である。

第6 回日本政府報告は、「雇用対策」のなかの「雇用状況」について、「(52)日本の全雇用者に占める女性雇用者の割合は上昇傾向にあり、女性の労働市場への 進出が進んでいる」と言う。しかし、男性の労働時間が非常に長い日本では、女性は、結婚・出産後は家事労働をほとんど一手に引き受けているために、フルタ イム労働者として働き続けることが難しい。そのために彼女らの多くは、結婚や出産を機にいったん退職するが、何年かして再就職する場合は、たいていパート タイム労働者として働くことを余儀なくされている。それは女性の選択であるだけでなく、企業の雇用戦略でもある。その結果、今日では女性労働者の半数近く (44%)が週35時間未満のパートタイム労働者で占められている。

また、日本では女性は、男性並に長時間働くことが困難で、男性に比して勤続年数が短く、パートタイム労働者比率が高い。そのために、日本の男女の間には、他の国々に例をみないほど大きな性別賃金格差がある。2010 年の国税庁「民間給与実態調査」によれば、女性の平均賃金は男性の0.53である。これにさきの性別労働時間差0.74を掛けると、女性の収入力は男性の 0.39になる。これは日本の企業中心・男性中心の働き方が、経済活動への参加における男女の著しい不平等を生み出していることを示すものである。第6回 政府報告も日本女性の係長、課長、部長相当職における女性の割合が、2009年現在で、11.1%、5.0%、3.1%と極めて低い水準に留まっているこ とを認めている。

長時間の過重労働と仕事に起因するストレスは、労働者に種々の健康障害をもたらしている。日本において、過労死karoshi(death from overwork)が深刻な社会問題になって四半世紀が経過したが、過労死・過労自殺は減る兆しがない。それどころか過労死(脳・心臓疾患)および過労自 殺(精神疾患)にかかわる労災請求件数は、1999年度から2011年度の間に648件から2170件に増えている(死亡事案以外を含む)。

長 時間労働は、過労死・過労自殺を多発させているだけでなく、日本人の職場生活と社会生活に深刻なひずみを生み出している。残業や休日労働が多くなれば、夫 婦と家族の時間、さらには育児や介護の時間が十分に取れなくなり、円満な家庭生活を維持することが困難になる。さらに自由時間が圧縮されると、働く人びと の社会参加が妨げられ、人びとの結びつきが弱まる結果、地域社会の持続可能性さえ危うくなる。とくに「男は残業・女はパート」の日本的な働き方は、男性の家庭や地域への参加を困難にするとともに、女性の雇用労働や職業生活への参加や困難にしている点で、男女共同参画社会の実現の最大の障壁になっている。

第6 回日本政府報告は、「仕事と家庭の両立支援」に「関連する取り組み」として、「(67)長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や、仕事と生活の調和を図る ことを目的とする「労働基準法の一部を改正する法律」が、2010年4月1日から施行されている」というと言う。これは1か月60時間を超える時間外労働 については、法定割増賃金率を25%から50%に引き上げる(中小企業は当面適用除外)というもので、時間外労働の上限を規制するものではない。日本企業 には労働者1人当たり年間250時間から300時間と推定される「サービス残業」が存在する。この賃金および割増賃金の支払われない時間外労働に関して は、割増率の引き上げは意味をなさず、「長時間労働に対する規制を強化」したことにはならない。また、時間外労働の割増賃金の基準となる「通常の賃金」に は諸手当や賞与などは含まれないので、割増率が60%を下回るかぎり、企業が追加労働投入をおこなう場合の労働コストは新規の雇用増より時間外労働による ほうが安上がりになる。

日本政府は過労死・過労自殺が多発する状況に直面して、「過重労働対策」や「ワークライフバランス」の名の下にさまざまな施策を実施してきた。にもかかわらず、時間外労働の上限規制については一貫して回避してきた。労働基準法は、労働者を1 週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないと定めている。しかし、使用者は同法第36条に基づいて、労働者の過半数を代表する労働組合またはそ れに代わる代表との間に協定を結び、労働基準監督署に届け出れば、時間外・休日に事実上無制限に労働させることができる。この制度は1947年の施行以 来、一度も改められていない。

時間外労働の上限規制に直結するものではないが、日本では2011 年11月から「過労死防止基本法」の制定を求める運動が盛り上がっている。この運動は、過労死弁護団全国連絡会議と全国過労死家族の会によって組織され た。両団体は「100万人署名」に取り組んでおり、2013年2月現在、44万人の署名を集めて、超党派の議員連盟(Diet Members Alliance)もすでに発足している。この基本法の実現のために国連自由権規約委員会の日本政府に対する適切な勧告が指されることを期待している。

5 「慰安婦」問題

 

A 結論と提言

 

B 自由権規約委員会の懸念事項・勧告

「委 員会は、締約国が第2次世界大戦中の「慰安婦」制度の責任をいまだ受け入れていないこと、加害者が訴追されていないこと、被害者に提供された補償は公的資 金ではなく個人的な寄付によってまかなわれており不十分であること、「慰安婦」問題に関する記述を含む歴史教科書がほとんどないこと、そして幾人かの政治 家およびマスメディアが被害者の名誉を傷つけあるいはこの事実を否定していることを懸念をもって留意する。」

「締 約国は「慰安婦」制度について法的責任を受け入れ、大半の被害者に受け入れられかつ尊厳を回復するような方法で無条件に謝罪し、生存している加害者を訴追 し、すべての生存者に権利の問題として十分な補償をするための迅速かつ効果的な立法・行政上の措置を執り、この問題について学生および一般公衆を教育し、 被害者の名誉を傷つけあるいはこの事件を否定するいかなる企てをも反駁し制裁すべきである。」

 

C 政府の対応と第6回政府報告書の内容

日 本政府は、上記の様な委員会の勧告を受けたにもかかわらず、委員会の勧告は法的拘束力がないから勧告に従う義務はない、と述べ(2009年1月5日付け谷 岡郁子参議院議員の質問趣意書に対する麻生太郎内閣の答弁)、この問題解決に向けて何らの措置もとってこなかった。のみならず最近は橋下徹大阪市長が「慰 安婦制度は必要であった」と述べて被害者にさらなる苦痛を与えたが、安倍内閣はこれを明確に批判していない。

今回発表された第6回日本政府報告でも、日本政府はこの問題について、次の様に述べて委員会の勧告を無視している。

1 この問題は規約締結前に生じた問題でありここで取り上げるのは適当でない。

2 我が国は植民地支配と侵略によってアジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えたことについて謝罪の意思を表明してきた。

3 「慰安婦」とされた被害者に対しても、女性の名誉と尊厳を傷つけた問題として「お詫びと反省の気持ち」を表明してきた。

4 この問題はサンフランシスコ平和条約と2国間条約によって法的には解決済みだが、政府はアジア女性基金を支援して基金が国民の募金から「償い金」を被害者に届ける事業を支援してきた。

5 アジア女性基金は2007年に解散したが、日本政府としては、女性基金の事業に現れた日本国民のこの問題に対する真摯な気持ちに理解が得られるよう今後とも努力していく考えである。

 

D 意見

そもそも、Cにおいて指摘したように、日本政府は委員会の勧告に従おうという姿勢自身をもっていない。この日本政府の態度は今回の日本政府報告の審査にあたって、まず厳重に是正を求められなければならない。

また、今回の日本政府報告は、Bに記載した委員会の今回の懸念についても、勧告についても、全くこれを無視した不誠実きわまりないものといわざるをえな い。このように委員会との「会話」を拒否する姿勢自身が問題とされなければならないが、さらにその内容の問題点を以下のとおりその要点についてのべる。

 

1 規約締結(1979年)以前の問題であって委員会が取り上げるのは適切ではない、との点について

 

この問題は規約7条および8条に関する問題として委員会から勧告を受けている 問題である。規約8条は何人も奴隷状態におかれないことを保障し、あらゆ る形態の奴隷制度や奴隷取引を禁ずるものである。このことは奴隷状態にしたり、奴隷制度を創設したり、運用したものの責任を追及し、かつこのことによって 被害を受けた者の救済もなされなければならないことを意味している。そして現にこの制度の被害者が被害の回復を求めているのであるから、日本軍「慰安婦」 問題は、このように禁止されている奴隷制度を、国家自身が創設し運用したものとして、日本政府は、上記のような加害者の処罰や被害者の被害回復の義務を 「現在」負っているものである。

さらに奴隷制度の禁止は、日本軍「慰安婦」制度が創設された当時すでに国際慣習法として確立しており、規約8条はかかる慣習法を明文化したものであるから、日本政府は、当時すでに、規約8条に定められているのと同様の法的責任を負っていたというべきである。

よって日本政府は、この問題が規約締結前の事案であるとして、本委員会で審議することを拒むことはできないのである。

 

2 日本政府は、「村山談話」「河野談話」によってすでに謝罪している、との点について

 

日本 政府が過去の植民地支配や侵略の事実を認めて謝罪したのは、1995年の村山首相が発出した「村山談話」であるが、「慰安婦」問題について、日本政府が謝 罪をしたのは、1993年8月4日の河野洋平内閣官房長官談話であるので、ここでは「河野談話」について以下のとおり反論する。

河野談話は、当時の日本軍が「慰安婦」制度の創設、運用に深く関わったこと、女性達を集める際に官憲が強制的に集めたこともあったこと、「慰安所」での女 性達の生活は自由を奪われた痛ましいものであったことを認め、謝罪するとともに、日本政府として謝罪の意思を表示する措置を検討すること、教育を通じて歴 史の教訓とすることを表明したものである。従ってこの河野談話の内容がその後の日本政府の基本的立場として貫かれ、これに反する言説に日本政府として反論 するなど、日本政府の態度が一貫していれば、確かに日本政府として謝罪している、ということも許されるだろう。しかしながら、この談話の発出直後から、政 府の内部からも政権与党内部からも、この談話で日本政府の責任を認めたのは誤りであった、とする言説が盛んに行われ、これに対して政府として何らの反論も 制裁もしてこなかった。特に「官憲による強制連行はなかった」とする言説は、女性達は自ら稼ぎに行った「売春婦」であった、とする言説で、被害者の尊厳を さらに傷つけるものであるが、この主張は安倍総理自身が強くもっている意見であり、前東京都知事の石原慎太郎や現大阪市長橋下徹のような要職にある者が繰 り返し発言し、日本の世論に大きな影響を与えている。また政府関係者の事実上の圧力で義務教育での歴史教科書にこの問題が全く記載されないようになってし まい、子ども達はこの問題について全く教えられることなく成人し、また一般の市民もマスコミ等で事実が知らされないので、「慰安婦」制度の実態を知る機会 がない。

このように、およそ日本政府として真摯に謝罪したとは言えない状況が続いているのであるから、改めて、日本政府が明確であいまいなところのない謝罪をすること、そしてその態度をその後の政府の態度として一貫させることが不可欠である。

 

3 サンフランシスコ条約と2国間条約によって「法的に解決済み」との点について

 

サ条約は、その14条bおよび19条によって、日本と連合国のそれぞれが相互に戦争賠償にかんする請求権を放棄した。そしてサ条約に加入していなかったそ の他の国との間でも、日本はその後の平和条約で同様の措置を執ってきた。しかしこれはあくまで日本の国内法の領域での請求権の処理であり、被害者はその被 害者が属する国の請求権放棄によって日本の国に訴え出ても、日本の裁判所はこの請求に応ずる義務はなくなった、すなわち「法的に解決済み」であると日本政 府は説明している。

しかしながら、これはあくまで日本の国内法の領域での問題であるところ、国際法上、日本は「慰安婦」制度すなわち性奴隷制の創設、運用という当時の国際 法にも違反する行為をおこなった国際法上の国家責任を負っており、この国際法上の国家責任を解除するためには、被害者に謝罪し、賠償するなど被害者の被害 回復等の措置を執らなければならない。日本政府は国内裁判所での請求の可否に関する「請求権放棄」によって、いかなる意味でも「法的に解決済みである」と 主張しているが、この「解決済み」論では国際社会からの国際法上の「法的解決要求」にこたえたことにならないのである。

のみならず、国際法における人権重視の理論の発展に伴って、重大な人権侵害行為については、強行規定(ユスコーゲンス)違反の行為として、条約によって も、加害国の責任は免れられないとする認識が一般化してきている。このような国際法におけるユスコーゲンスに関する確信をもとに、国際社会は日本政府に対 して女性の尊厳を奪った性奴隷制である「慰安婦」制度の創設と運用の「法的責任」を取るよう繰り返し求めてきたのである。すなわち、日本政府は人道に反す る行為を国家としておこなったことについて、国内法上でも「解決済み」とすることは許されないとして「法的責任」をうけいれることを求められているのであ る。

さらに日本の最高裁は2007年4月27日に中国人の強制連行被害者の裁判と「慰安婦」被害者の裁判において、サ条約などによる請求権放棄とは、裁判所に 訴える訴権を失わせるものではあるが、請求権そのものを消滅させるものではないとの判断を示した。すなわち日本政府の立場にたっても日本政府はこの意味で 「法的責任」を負っているということができるのであり、被害者の未だ失われていない請求権に対応して補償をすることは、法的な義務の履行として必要なこと である。

 

4 アジア女性基金によってすでに賠償義務も終わっている、との点について

アジア女性基金は、被害者に「償い金」の支払いをしたが、この「償い金」はすべて日本の国民の募金から支出されたもので、この中には日本の国庫からの金銭 は入っていない。すなわち被害者から見ると、この「償い金」は日本政府の謝罪の証しとは理解できないものであるがために、多くの被害者はこの受け取りを拒 否したのである。日本政府は上記の「法的解決済み」論をたてに、国庫からの被害者個人に対する「償い」をかたくなに拒んできたが、これが前回の委員会の勧 告の中で「被害者に提供された補償は公的資金ではなく不十分である」とされたのである。

したがって日本政府は、「すべての生存者に権利の問題として十分な補償をするための迅速かつ効果的な立法・行政上の措置」をとることを求められたのであ る。従ってこのような委員会の勧告に対して、アジア女性基金で対処した、というのは全く回答になっていないばかりでなく、むしろ委員会を愚弄するものであ る。さらに日本政府が「同基金の事業に表れた日本国民の本問題に対する真摯な気持ちに理解が得られるよう今後とも最大限努力していく」と言うのは、見当違 いも甚だしい。

日本国民の多くは、委員会の勧告に従って、日本政府が「真摯に」被害者の納得の得られる補償措置をとることを求めているのである。

なお現在、具体的に被害者に対して日本政府の謝罪と賠償を求めているのは、被害国としては韓国のみとなっているが、これは朝鮮半島からの被害者がもっと も数が多いことのほか、次の事情によるのであって、韓国以外の被害国が日本政府の今までの対応を納得しているわけでは全くないことを述べておく。

すなわち韓国と日本との間では上記の2国間条約として日韓請求権協定(正式名称は「日本国と大韓民国の間の財産及び請求権に関する問題の解決と経済協力に 関する協定」)が締結されているところ、その2条1項では請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」との規定があり、 日本政府はこれによって請求権は放棄された、と主張して来た。他方韓国政府はこの協定にかんする交渉過程で「慰安婦」被害者の請求権問題は協議の俎上にの ぼらなかったし、この問題は日本政府が人道に反する行為を行ったことによる請求権の問題であるから、請求権の放棄はできない、すなわち法的に請求権は残っ ている、と主張してこの2条1項の解釈に紛争が生じていた。ところで、このような協定の解釈における紛争が生じた時には、協定3条にその解決のための手続 き、が定められているから、韓国政府としてはその手続きを請求する作為義務があったのに、それを怠っていたとして、2011年8月30日に韓国憲法裁判所 が韓国政府に対して、その不作為を違憲とする決定を下した。このため韓国政府としてはこの問題解決を日本政府にたいして要求しなければならない法的義務を おっているがために、この決定以降強く日本政府に解決を求めてきている。しかし他の被害国が今までの日本政府の対応に納得しているわけでないことは言うま でもない。

 

E 解決のための提言

日本政府は、前回の委員会の勧告に従って、次のことを行う必要があり、かつこれは政治決断で実行できることである。

1 被害事実を認め、真摯に謝罪すること

2 国庫から謝罪の証しとして被害者に対して補償をすること

3 教科書の記述にこの問題を入れるよう教科書出版社を指導すること

4 この問題を否定したり、政府のこのような対応を非難する言説には厳しく批判し日本政府の立場をあきらかにすること

6 治安維持法犠牲者への謝罪と賠償 (7条、18条)

戦争犯罪及び人道に反する罪に時効はない

 

A、論点

 

1925年3月に施行され、1945年10月に法廃止された治安維持法(the Public Order Maintenance Law)は、国家権力によって支配体制に抵抗する国民に対してあらゆる暴虐と陵辱が加えられた最悪の人権弾圧法で、自由権規約第7条、第18条に違反しています。

特別高等警察と憲兵に嫌疑をかけられ取調べを受けた人たちは数十万に及び、礼状なく連行、逮捕、拘束され、殴打などの暴行と脅迫を受け、釈放後も厳しくは監視されました。身柄を送致された者は、国内で75681 人、植民地朝鮮で11681人、裁判に付された者は、国内で5162人、朝鮮で4464人です。捜査段階で官憲の拷問等の暴虐によって殺された人は、国内 では小林多喜二を始め95人以上に及びます。長期拘禁中の反復的な拷問、虐待、栄養失調、不衛生な環境などによる疾病等で獄死した人は360人余です。社 会主義者、宗教者、学者、文化人など思想信条を超えた広範な人々が犠牲者となりました。

治安維持法は「国体を変革し又は私有財産制度を否認することを目的に結社を組織し、これに加入したものは10 年以下の懲役又は禁固に処す」とした法律ですが、1928年に最高刑は死刑とされました。疑いをかけた者は片端から警察署に連行し、令状なしで検束、家宅 捜索、長期勾留し、当時の刑法でも禁止されていた拷問、陵辱によって自白を強要し、治安維持法容疑へと令状を切り替えていったのです。とりわけ女性犠牲者 に対する官憲の取調べではレイプ・陵辱が日常化するなど言語を絶するものでした。なかには全くのデッチ上げ(冤罪)で60余人(正確な人数はわからない) もの研究者・編集者が逮捕され、残虐な拷問(女性は耐え難い辱かしめを受けた)を加えられ、獄死者4名、衰弱して釈放後の死者1名、負傷者32名、失神体 験者12名という甚大な被害が生まれた「横浜事件」がありました。戦後になってようやく再審が行われましたが、裁判所は、有罪・無罪の判定をしないまま 「免訴」としました。理由は「『不敬罪』で告発された被告の裁判中に不敬罪が廃止となり、検事の公訴権は消滅し、裁判のそれ以上の進行は不可能」というこ とでした。免訴にすることによって、裁判のやり直しと事件を捏造した国家の犯罪・責任を認めることを回避したのです。

治安維持法犠牲者は国からの謝罪も名誉回復も補償もなく今日に至っています。被害者の多くは亡くなられています。一刻も早い謝罪と補償を求めています。

 

B、自由権規約委員会の勧告・懸念は「なし」です

 

拷問禁 止条約第1回日本審査の「総括所見」では、次のように明記しています。パラグラフ11「戦時における条約の適用の事例が欠落している」、パラグラフ12で は「拷問や虐待に匹敵する行為が時効の対象になっていることに懸念を抱く」「時効が重大犯罪の取調べや訴追を妨げていることに懸念を抱く」「締約国は時効 に関する規定を見直し、条約に定められた義務に完全に沿うようにしなければならない」「拷問の試みや共犯、共謀を行ったいかなる人物の行為を含め、拷問や 虐待に関する行為は時効に関係なく取調べや訴追、処罰を行うことができる」と指摘しています。

 

C、日本政府の対応

 

当時 は、侵略戦争遂行のために国家として反対者を封じる行為は当然のことで、最も深刻な人権侵害であるという認識は全くありませんでした。その残滓が戦後の政 治に根強く引き継がれています。治安維持法の権力犯罪の実行部隊となった特高警察だった人たちの多くは、戦後まもなく釈放されて政府の要職につき、その後 の政治に大きな影響を与えてきました。一方で政府は、治安維持法は戦前のことであり、政府として責任を持つのは1979 年の自由権規約批准以降のことであるとしています。国際ルール(「戦争犯罪及び人道に反する罪に時効不適用に関する条約、1970年効力発生)では、戦争 犯罪と人道に反する罪には時効がないとしていますが、日本はこの条約の採択で棄権をし、いまだに批准をしていません。治安維持法弾圧で人道に反してきたこ とを歴史的・道義的に認めていないのです。

 

D、意見

第2次世界大戦が終わって68 年が経過しましたが、今なお日本は戦争の清算ができていません。従軍慰安婦、強制労働など侵略戦争で犯した過ちをしっかりと清算してこそ、21世紀を平和 と人権の世紀とすることができます。戦前の治安維持法による人権侵害は従軍慰安婦などの植民地支配した人々への人権侵害と裏表にあたるものです。これまで の歴史に真摯に向き合い、過去の過ちを繰り返さないために、旧権力によって侵された自国民はもとより、加害と侵略を蒙った諸国民への謝罪と賠償を行うこと は当然のことと思います。第二次大戦後のドイツ、イタリアなどはその典型事例です。「平和と民主主義」の名において、侵略と加害国の日本と戦った中華人民 共和国が侵略と加害の尖兵となった下級日本兵の戦争と人道の罪を「連帯のための寛容政策」によって許し、アメリカやカナダが居留日本人の強制収容に謝罪し てその補償政策をとったことも現代人権史における輝かしい事跡です。戦後、明治憲法の天皇制軍国主義から日本国憲法の平和と民主主義の政治に転換した日本 では、治安維持法犠牲者や、侵略と植民地支配により生命、身体、財産、文化等に甚大な被害を受けた諸国民に対して、謝罪も賠償もしていません。侵略戦争で 犯した過ちをしっかりと認め、二度と同じ過ちを繰り返さないためには、被害者への謝罪と補償がまずスタートです。自由権規約委員会からの勧告をはじめ国際 的な世論が大きな力になると確信します。

 

E、解決のための提言

 

治安維持法による弾圧犠牲者の侵害された自由および名誉を含む人権の救済を目的とする市民団体・治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟(League Demanding State Compensation for the Victims of the Public Order Maintenance Law)は、1974年から、毎年国会への請願署名を提出してきました。署名総数は840万筆をこえています。地方議会での意見書採択も42都道府県の 389市区町村に広がっています。一刻も早く「治安維持法犠牲者国家賠償法」の立法化を実現することとともに、私たちが40年近く、毎年取り組んでいる請 願事項を実現することが第1歩です。次の3点です。

①国は、治安維持法が人道に反する悪法であったことを認めること。

②国は治安維持法犠牲者に謝罪し、賠償を行うこと。

③国は治安維持法による犠牲の実態を調査し、その内容を公表すること

 

国際水準の視点から、日本の人権状況と自由権規約の実施状況を厳正に審査してくださることをお願いいたします。

 

7 「日の丸・君が代」問題( 規約 第18条、19条 )

 

 

A 私達の訴えたい論点

 

 

1.規約第18条、19条に違反する、学校での卒業式・入学式における、教職員、

児童生徒、式参列者に対する「日の丸・君が代」起立斉唱強制問題

2.1について第18条、19条違反状況に対する日本政府の無対応問題

 

B.国際人権(自由権)規約委員会の懸念事項・勧告内容

記載なし。

 

C.第6回政府報告書の記述

記載なし

第5回政府報告審査時には、複数のNGO団体より、「日の丸・君が代」強制による人権侵害が報告されたが、第6回報告書には1行も触れられていない。

 

D.  第18,19条に違反する起立斉唱(ピアノ伴奏)強制の事実

2003年10月23日東京都教育委員会が発出した「10.23通達」によって校長の起立斉唱(ピアノ伴奏)「職務命令」に従わないとして多くの教職員が処分されている。以下引き起こされている人権侵害について教職員、児童生徒、市民の順で侵害事実を記す。

 

D-1教職員への人権侵害(18条1,2,3項、19条1,2,3項、2,5,17,26条違反)

D-1-(1) 「日の丸」「君が代」への起立斉唱命令に従わないと処罰される。

東京 都公立学校教職員は、「職務命令」により、式場正面の「日の丸」に相対して起立し「君が代」を斉唱させられる。音楽科教員は「君が代」をピアノ伴奏しなけ ればならない。いかなる信念、思想、信仰をもっていようと、拒否する権利は認められていない。拒否をすれば例外なく処罰される。「通達」発出以後、処分さ れた教職員は450名(2013年5月現在)にのぼる

 

D-1-(2) 突出する東京都の被処分者数

2003年から2013年の日本全国(47都道府県)「日の丸・君が代」被処分者総数は、610名であり、そのうち東京が7割強を占める。 東京都下での1989年から2002年まで13年間において、判明している「日の丸・君が代」被処分者総数は21名である。これらと比較しても、2003 年から2013年までの10年間における450名という被処分者数は突出しており、「通達」による人権侵害の苛烈さを示している。

D-1-(3) 加速度的に重くなる処分

毎年 2回「職務命令」をうけるため、信念を曲げないと、1回ごとに加重処分となり短期間で急速に戒告、減給、停職処分と重くなった。他の道府県では4回目の命 令違反は戒告処分であるが、東京では停職1ケ月である。東京では、教職員を精神的経済的においつめ、思想、信念、良心を放棄するようにさせる為、際立った 累積加重の重罰主義をとった。

2012年1月最高裁は、裁量権逸脱として都教委の累積加重処分に一定の歯止めをかけた。

 

D-1-(4) 思想、信念、良心,信仰を放棄させるための「再発防止研修」

起立斉唱伴奏命令に従わなかった教職員は、処分を受けた上、「再発防止研修」と名付けられた「反省」の為の「研修」を受けさせられている。 研修プログラムでは、「上司の命令に従う義務」を繰り返し講義される。終了するには、心情、反省等を書かなければならない。2012年4月からは、研修回 数が急増し、講義内容に「起立斉唱の義務」が加わり、「振り返りシート」による反省度チェックが行われている。

 

D-1-(5) 精神的圧迫による精神疾患の増加

被処分者を出した学校では、連帯責任として、全教職員が校内服務研修を受けさせられる。都立高校では、不起立をした教員が担任から外される例も起きている。

校長 から、「(不起立すると)学校の名誉が損なわれる」と長時間責められ、精神的ダメージで病気休業した例、ピアノで「君が代」を弾くように命じられ、自殺念 慮を想起するほど悩み病気休業した例、等病気になる教職員が激増した。2002年東京都の精神疾患休職教職員数は171名であったが、2003年には 259名に跳ね上がっている

 

D-1-(6) 処分による経済的不利益

処分を受けた教職員は経済的な損失を受ける。停職1, 3, 6ヶ月処分は期間中賃金が支払われない。減給1, 3, 6ヶ月処分は、賃金の10分の1を月数分賃金から引かれる。戒告処分は、昇級延伸される。いずれの処分も勤勉手当や生涯賃金、年金、退職金等に大きな損失をこうむる

 

D-1-(7) 「起立・斉唱」命令に反した被処分者は再雇用拒否

60歳定年後、希望者には選考を経て再雇用職員の地位が保障されてきたが、「通達」後は、職務命令違反で処分されると雇用が取り消されている。2004年3月には、継続再雇用職員が、勤務開始の1日前に、通告なく解雇された。「通達」命令違反以外の理由で処分された教職員は合格採用されているが、「通達」命令拒否者のみ、一人として選考に合格していない。比例原則に反し、不起立者への差別が著しい。

 

D-2 児童生徒への人権侵害(18条1,2,4項、19条1,2項,24条 違反)

「10.23通達」以降、児童生徒への、「指導」を名目にした起立斉唱強制をはじめとする様々な人権侵害が顕著になっている。

D-2-(1) 児童生徒への起立斉唱強制事例

2004年Ⅰ 高校では不起立の生徒達に、管理職と来賓の都議会議員が起立しろと怒鳴り、2005年H高校では管理職が、不起立の生徒の肩を揺さぶって起立を強要してい る。また、2004年H障がい児校では不起立生徒の手をひっぱり、2007年MI障がい児校では生徒のお尻を持ち上げて起立させている。2004年MA障 がい児校では不起立を表明した生徒の家庭へ、聞き取り思想調査を行い起立するよう圧力をかけた。2004年M市内小学校では、「君が代」斉唱時に声量調査 を行い、声が小さいと児童の口に拳をいれさせ、大きく歌うよう指導している。信仰上の理由から不起立した小学生を、管理職複数が囲み、立つよう促した例も報告されている。

 

D-2-(2) 生徒への「内心の自由」の告知を禁止

2004年都教委は、「内心の自由がある」ことを生徒に告げた教員などを処分し、2005年には「3.11通知」を出して「内心の自由」権利告知を禁じ た。2006年は「3.13通達」で、児童生徒への起立斉唱指導の徹底を求めた。児童生徒の良心的拒否を保障する代替措置は一切とられていない。

 

D-2-(3) 障がい児に対する権利侵害

教職員を起立させようとして、生徒の人工呼吸器の緊急音が鳴っているのに、その対処よりも起立を命じた例、児童のトイレ介助のために式場を出ないようおむつ着用を指示した例、最重度生徒のための介助姿勢や生徒間のトラブル指導などを、「起立」を損なう行為として叱責禁止した例など障がい児童生徒の生命、健康、安全を無視する事態が起きている。

また都教委が都内全校に一律、壇上証書授与を命じ、フロアー使用を禁じたため、車イスで自走して証書を受け取っていた児童生徒は高い壇上には上れず、自ら動く権利と誇りを奪われた。対面形式の卒・入学式も禁止された。

 

D-2-(4) マイノリテイの児童生徒への権利侵害

侵略戦争や天皇制の象徴「日の丸・君が代」への敬意表明強制は、日本が侵略した国に民族的ルーツをもつ生徒や、部落差別を受けてきた生徒をとりわけ苦しめている。多くの生徒が煩悶し、卒業生が式ボイコットまでして反対を表明した学校もある。

 

D-2-(5) 意見表明権の侵害

生徒 による卒業式自主企画、運営は禁じられた。「通達」についての討論会を生徒が自主的に開催したところ、それを指導したとして教員が処分された。こうして都 教委は生徒の意見表明へ圧力をかけた。卒業式で読み上げる生徒代表のメッセージも検閲された。卒業作品も撤去された。

 

D-3 市民への人権侵害(18条1,2,3項、19条1,2,3項違反)

D-3-(1) 起立斉唱への同調圧力

式参列者への「内心の自由」アナウンスは禁じられ、参列市民は起立斉唱の強い同調圧力にさらされている。不起立の来賓は招待されず、「通達」を批判したPTA会長は辞任させられた。

 

D-3-(2) ビラまき逮捕

都立学校卒業式の校門前では、多くの市民が生徒や保護者に、「通達」のおかしさや強制反対を訴えるビラをまいたが、学校管理職、都教委や公安警察は監視し、N高校では学校敷地に入ったとしてそれを口実に市民を逮捕した(2005年3月)。その後も尾行など多くの妨害があった。

 

D-3-(3) 意見及び表現行為に対する刑事弾圧

さらには、強制反対を保護者に訴えた行為が、「その場の状況にそぐわない不相応な態様」として刑事罰を科され,強制反対の意見表明することを萎縮させる事案がおきた。

2004年都立Ⅰ 高校卒業式場において来賓のF元教諭は、開式18分前に「通達」批判記事コピーを保護者に手渡し、強制反対を訴えた。訴えは誰の制止も受けずに終わり、直 後、元教諭は管理職から退席を強要され退場した。その後卒業式がはじまり「君が代」斉唱時に9割の生徒が起立しなかったが、式全体は感動的に終わった。と ころが後日、F元教諭は「式の円滑な進行への支障を与えた」として「威力業務妨害罪」で起訴され、2011年最高裁は、「公共の福祉」を根拠に「表現の自 由の権利」制限を正当化、罰金20万円の判決を下した10

「日の丸・君が代」強制反対の声を、学校管理職・都議会議員・都教委・警察・検察が押しつぶそうとしたこと、裁判所が、「公共の福祉」を根拠に「表現の自由の権利」制限を正当化したことなど、看過できない侵害がひきおこされている。

 

D-4 大阪などへひろがる人権侵害

北海道では2010年公職選挙法違反事件を口実にして、道教委が道内の全ての学校で、教職員の「日の丸・君が代」思想調査や組合活動についての調査をおこなった。

神奈川県では、2007年個人情報保護審査会、2008年同審議会からの勧告にも関わらず、県教委は教職員の「不起立者氏名調査」を毎年強行している11

2011年大阪では橋下市長(当時府知事)により全国初の「君が代」斉唱時に起立を義務づける「君が代起立条例」12 が制定され、2012年には「職員基本条例」や大阪府・市の教育に関する諸条令によって同一職務命令に3回違反すると免職になること が定められた。処分後の研修では「再び命令違反はしません」と誓約書にサインを求められ、「起立斉唱」命令に3回従わないと、免職解雇されることになっ た。2011年から2年間で49名が職務命令違反として処分されている。全国の学校で思想良心の自由、表現の自由侵害がますます拡大、深刻化している。

 

D-5 日本における「日の丸・君が代」問題の歴史的背景

D-5-(1)日本のアジア侵略戦争と「日の丸・君が代」の果たした役割

日本は1868年の明治維新によって近代的な国家建設の道へと突き進んでいったが、しかしそれは天皇を中心とする絶対主義国家としてであった。天皇は唯一の主権者として統治権を総覧する「神聖にして侵すべからざる」存在13であり、国民はすべて天皇に従属する「臣民」であった。

学校教育は「臣民」として、天皇のために命をも捧げる国民の育成を目的として行われた。祝祭日に行われる学校儀式は、「現人神」としての天皇に対する尊崇と畏怖の感情を生起させ、国の支配者に対する従順の気風を養うためのものであった。

戦前から国歌として扱われた「君が代」14 は「君が代は千代に八千代に?」(天皇の支配が永久に続き栄えるように)の歌詞にあるように天皇家の奉祝歌である。

また学校行事の際に式場や校門に必ず大きく掲げられたのが「日の丸」である。「日の丸」は天皇中心の日本国を象徴していた。

「日の丸」は戦争において敵陣めざして突撃をする際に必ず登場したものであり、 帝国日本のアジア侵略と支配を象徴する旗でもあった。 かつて日本の侵略をうけたアジア諸国の人々の中には、今なお「日の丸」に対する拒否感を強く抱いている人々が多数存在している。

このような過去があるために、「日の丸・君が代」については現在においても日本国民の間で様々な意見の相違があり、画一的に強制することに対する反対意見が根強い。

 

D-5-(2)戦後の学校教育における「日の丸・君が代」の扱い

敗戦後、1946年には新憲法が制定され、日本は、国民主権の原則に立つ国になった。1947年には教育基本法が制定され、教育は、天皇に忠実な「臣民」 の育成を目的として行われるのではなく、個人の「人格の完成」を目的として行われるものとなった。また、多くの教員は戦争中に子どもたちに軍国主義教育を 施し、前線での戦闘に駆り立てたことを「罪」として深く反省し「教え子を2度と戦場に送らない」と誓った。そして「軍国主義教育」に対する反省として、 「日の丸・君が代のない卒業式・入学式」が全国各地で取り組まれた。

また、卒業式・入学式をはじめとする学校行事はすべてそれぞれの学校で自主的に行われるものとされ、国の関与からいっさい自由であった。 しかし、1989年に学習指導要領が改定され、卒業式・入学式における「国旗掲揚と国歌斉唱」が従来よりも強い義務づけ規定と変えられて以後、文部省は都道府県の教育委員会に対して「国旗掲揚と国歌斉唱」の実施を迫るようになってきた。

とくに1999年の「日の丸」を国旗とし「君が代」を国歌とすると定めた国旗国歌法の制定以後は、「強制しない」という政府答弁があったにもかかわらず、 「国旗掲揚と国歌斉唱」の100%実施を強く求める文部省の指導により、全国各地で卒業式・入学式における強制的実施が強く進められた。また、2006年 に教育基本法が改悪され、愛国心教育がこれまで以上に強力に推進されるようになっている。

 

D-6 東京都における国家主義教育の強化

D-6-(1)東京都の教育行政の国家主義的傾向

東京都における国家主義教育は石原慎太郎都知事(当時)のもとに強力に進められた。

2001年には東京都教育委員会は東京都の教育目標から「憲法・教育基本法を尊重する」や「子どもの権利条約を尊重し」などの文言を削除し、代わりに「国を愛する心」などの文言を付け加え、排外的なナショナリズムを教育の場に導入しようとした。

2003年7月に都立N養護学校の知的障がい者に対する性教育が「過激性教育」であるとして一部都議会議員と都教委は一部マスコミと共に学校内に立ち入 り、教材を没収したうえ、関係教職員に懲戒処分を加えた。このように行政が外部の政治勢力と結託して教育の具体的な内容に深く干渉し始めたのである。

東京都における「日の丸・君が代」の強制は、石原都政下におけるこのような一連の教育行政の進行の中で行われたのである。

 

D-6-(2)10.23通達と教職員に対する「日の丸・君が代」の強制

2003年10月23日東京都教育委員会は、教育長名で通達「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」を都立学校の校長にあてて発 出し,校長の職務命令にしたがわない場合は処分することを周知した。また式の実施にあたっては、別紙「入学式、卒業式に置ける国旗掲揚及び国歌斉唱に関す る実施指針」に基づき、教職員は国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する、「君が代」は教員がピアノ伴奏する、卒業証書授与は舞台壇上で行う、など細かく決 めた。

10月23日、都教委は全都立学校(高校・障がい児学校)の校長を都庁舎に呼び集め、通達を徹底するよう校長に対して伝えた。

その結果、前述したように2013年5月までの間に「職務命令」違反として処分された教職員の数は総計で450名にも達している。

 

D-7  裁判所の判断

D-7-(1) 訴訟の提起

教職員は起立・斉唱・ピアノ伴奏を命じる職務命令は、その歴史認識、思想、信仰あるいは教員としての良心を蹂躙し、教育の自由を侵害すると訴え,さまざまな形態の訴訟を行ってきた。

 

D-7-(2) 下級審判決

職務命令が発せられる以前に、予め「起立・斉唱・伴奏の義務のないことの確認」と「処分の差し止め」の判決を求めた「予防訴訟」(一審判決時原告数401名)においては、一審東京地裁において2006年9月21日違憲判断の判決がなされた。

ま た、2011年3月10日の東京高裁判決は、168名のすべての原告について、「自らの思想・良心に忠実であろうという、やむにやまれぬ動機による不起 立・不伴奏」であることを認めて、戒告を含む全処分を懲戒権濫用として取消し、教員の人権を救済した。しかし、いずれの判決も、最高裁では否定の結論と なっている。

 

D-7-(3) 最高裁の判決

10.23通達以前になされたピアノ伴奏命令拒否を理由とする懲戒処分(戒告)についての最高裁判決が2007年2月27日に言い渡された。この判決で は、「ピアノ伴奏という外部行為の強制が、その教員の内面の思想良心の侵害に、一般的客観的に不可分に結びつくものとは言えない」として、公権力による思 想良心の侵害の存在自体を否定する判断が示された。この判決のあと、多くの処分取消請求訴訟が、この最高裁の論理を踏襲し教員側敗訴の判決が続いた。

2011年5月以降10.23通達関連訴訟への最高裁判決が言い渡された。前記ピアノ判決の論理とはやや異なり、国旗国歌への敬意表明の強制が思想良心の 間接的な制約となることは認めた。しかし、「間接的制約に過ぎないから、厳格な違憲審査の必要はなく、緩やかな審査基準を適用して、制約の合理性・必要性 を認める」との合憲判断となった。

また、2012年1月16日に出された最高裁判決15で は、裁量権濫用の判断において「原則として戒告であれば違法といえないが、減給以上は処分の量定が重きに失して裁量権濫用にあたり違法」と、免職・停職・ 減給・戒告と4段階ある懲戒処分のうち、減給と戒告の間で線引きをした。現在、この判断がこの問題に関する最高裁の態度である。

 

E.  私たちの意見

 

E-1  判決についての見解

E-1-(1) 国旗国歌強制と日本国憲法

公権力が公立学校の学校行事において教職員に国旗国歌への敬意表明を強制し、これに従わない者に対して懲戒処分を科することは、日本国憲法上の国民の権利 である19条、自由権規約でいえば18条の「思想良心の自由」を侵害する。また、懲戒権の濫用としても違法であり処分は取消されなければならない。

 

E-1-(2) 司法消極主義の現状

日本 の裁判所は、立法府に対しても行政府に対しても、その行為の憲法適合性を審査し違憲と判断する権限をもっている。しかし、伝統的にその権限の行使には極め て臆病で、過度に慎重である。その姿勢の理由は、国民多数の支持によって構成されている国会や内閣あるいは自治体の判断をできるだけ尊重すべきだと説明さ れる。しかし、このような司法のあり方の理解では、公権力が多数派によって構成される以上、必然的に少数派の人権の切り捨てにつながる。憲法の番人であり 人権の砦であるべき裁判所は、積極的にその職責を果たさなければならない。

 

E-1-(3)最高裁憲法判断の問題点

2007年ピアノ判決の論理は、「国歌をピアノ伴奏する外部行為」と「伴奏者個人の思想良心」とを切り離して、外部行為の強制があっても思想良心侵害には当たらない、とした。これには学会や法曹界からの強い批判が寄せられた。

その ため、この判断は実質的に変更され、今最高裁は「国旗国歌への敬意表明の強制は思想良心の間接的な制約となる」ことまでは認めている。しかし、「間接的な 制約に過ぎないから、厳格な違憲審査の必要はなく、緩やかな審査基準を適用して、制約の合理性・必要性を認めてよい」との合憲判断となっている。

本 来、自由権的基本権の制約においては、アメリカの判例法で発展した「二重の基準論」に立って、「厳格な違憲審査基準」が適用されなければならない。規約委 員会においても厳格な審査が適用されている。しかし最高裁はその適用を回避するため「間接的制約」という概念の設定をなした。承服しがたい。教員らは、自 由権規約18条を国内法規としての効力あるものとして、これを根拠とする主張をしたが、最高裁が顧慮するところはなかった。

最高裁判所は「公共の福祉」概念の不当な用法によって、行政の必要性による人権の制限を肯定する判決を言い渡し続けている。

 

E-1-(4) 懲戒権濫用論の不十分さ

最高裁は、処分量定には一定の歯止めをかけてはいる。

しか し、前述のとおり、2011年3月10日の東京高裁判決は、戒告を含むすべての処分を裁量権逸脱濫用に当たるとして違法とし、取り消している。最高裁は、 これを踏襲する選択はあり得たのに、敢えて戒告処分の効力を容認した。思想良心や信仰の自由に対する尊重の姿勢の希薄さを指弾せざるを得ない。

 

E-2  政府対応・政府報告書の問題点

E-2-(1) 侵害実態の報告書無記載

規約18条に関する政府報告は「これまでの報告の通り」と述べるだけで,国内において公権力による思想良心の自由の侵害事例がないかのごとき報告がなされている。このような日本政府の態度は,2006年12月の第5回政府報告から改められていない。

そ もそも,国旗・国歌は国家を象徴するハタ・ウタであって,国旗に向かって起立して,国歌を斉唱(ピアノ伴奏)する行為は,当該国旗・国歌が象徴する「国 家」に対する敬意を示す行為にほかならない。最高裁判所においても,国歌の斉唱はその表象する国家への敬意の表明行為であるとされており,国歌の起立斉唱 (ピアノ伴奏)の義務付けは規約18条(日本国憲法19条)が保障する思想良心の自由と抵触することになる。

にもかかわらず,政府報告では,東京都による国歌の起立斉唱(ピアノ伴奏)の義務付けという規約18 条に抵触する人権侵害事例が,2003年10月以来10年にわたって続いており,2010年からは大阪府にも拡大している現状に全く言及されていない。こ れは,政府が「国歌の起立斉唱(ピアノ伴奏)の義務付け」が規約18条違反に該当することを認識していないことを示しており,政府報告において取り上げら れていないこと自体が極めて重大な問題として指摘されなければならない。

 

E-2-(2) 「公共の福祉」による権利制限の正当化

一方 で,政府報告は,「『公共の福祉』概念の下,国家権力に恣意的に人権が制限されることはもちろん,同概念を理由に規約で保障された権利に課される制限が棄 却で許容される生客を超えることはあり得ない」と述べる。そして,今回の政府報告では「公共の福祉」概念に関連して,「高等学校の卒業式において起立して 国歌斉唱することに反対していた被告人」に対して,最高裁判所が威力業務妨害罪の成立を認める判断をしたことに言及している16

学 校の卒業式等において,国旗に向かって起立し国歌を斉唱する行為は,国旗及び国歌が象徴する国家に対する敬意を表明する行為であり,当該行為を強制するこ とは,公権力が一定の思想に基づく行為を強制するものであって,国民の思想良心の自由と抵触するものである。にもかかわらず,最高裁判所の判断において 「国歌斉唱の強制」が思想良心の自由と抵触することが看過された結果,前記被告人の処罰が肯定されているものであって,同判決は,人権規約18条及び19 条に抵触するものである。したがって,この判決自体,「公共の福祉」が規約の下で許容されない権利制限を許容するものとして機能していると言わざるを得な い。

のみ ならず,規約19条に関する一般的意見34パラ38において「旗や象徴に対する不敬」への懸念表明と、「厳しい処罰を最早科してはならないと考える」と言 及されていること,さらに,同意見34パラ25において「法律は,制限の実施に当たる者に対して,表現の自由の制限のために自由裁量を与えるものではあっ てはならない」とされているところ,前記判決は「表現の自由の重要性に配慮することなく比較衡量を行って犯罪の成立を認めており,「公共の福祉」が「表現 の自由の制限のために自由裁量を与えるもの」として機能していることを指摘せざるを得ない。

日本 政府は「憲法による人権保障及び制限の内容は,実質的には,本規約による人権保障及び制限とほぼ同様のものとなっている」と述べるが,実際には,国家権力 によって広範に,恣意的に人権制限がなされており,前回の政府報告に対する規約委員会の勧告に示された懸念が現実のものとなっている。

 

E-3  第18条19条に違反する事実の総括

E-3-(1) 強制の事実???第18条、第19条、第24条違反

東京都・東京都教育委員会は、公立学校の卒業式、入学式において、「日の丸」に向かって起立し「君が代」を斉唱することを教職員、子ども、式参列市民に強制し,その他諸々の人権侵害を引き起こしている事実がある。( D1?D3)

 

E-3-(2) 処分、不利益取り扱いの事実???第18条第1, 2項、第19条第1, 2項、第2条、第5条、第17条、第26条違反

起立、斉唱、ピアノ伴奏職務命令を良心的拒否ないし市民的不服従により拒否した教職員は、処分をはじめ不利益な扱いをされている。( D1)

E-3-(3) 「10.23通達」は条約違反の事実――第18条、第19条、一般意見34の 第38項違反

「10.23通達」およびそれに基づく「職務命令」自体、第18条第1, 2, 3, 4項および第19条第1、2、3項に違反するものである。

理由1   「10.23通達」は、「法律」で定められていない。規約上許される権利の制限は、18条第3項、第19条第3項に「法律で定める制限」とされる。「通達」は学校教育法施行規則に基づく『告示』である『学習指導要領』に根拠をもつ行政機関内部の行政規則にすぎない。

理由2    「10.23通達」は、明らかに権利を侵害する方法で適用されている。一般意見第22,一般意見34に第18条第3項,第19条第3項の適用においては、 保障される権利を侵害する方法であってはならないことが喚起されている。「通達」は教育の基礎である教師の全人格と子どもの全人格の応答関係を壊し、教師 の市民的自由、職能的自由、子どもの市民的自由を侵害している。また、第18条第4項に定められる「父母および場合により法定保護者が有する自由」を侵害 し、子どもの権利、障がい者の権利、マイノリテイの権利、表現の自由の権利を侵害している。

理由3   一般意見34の第38項「旗や象徴に対する不敬に関する法律への懸念」や1996年4月ザンビア政府報告書審査後の総括所見等委員会の見解に反している。

 

E-3-(4) 国の無策の事実――第1条1、3項、第2条違反

国はNGO 諸団体からくりかえし自治体における「日の丸君が代」強制による人権侵害の事実を情報提供されてきた。にもかかわらず、委員会への報告はおろか、人権侵害 実態の改善に向けた何らの対応もしてこなかった。規約上の権利侵害を黙認,助長する対応は即刻あらためられなければならない。( C、E-2)

 

E-3-(5) 裁判所の不適切解釈の事実――第2条3項(b)違反

裁判所は、自由権規約の適用に際し、国内法優位ないしは誤った解釈適用をしている。裁判所が正しく解釈適用できるよう、国は積極的な方策を講じなければならない。(D-7、E-1)

 

 

F  解決のための提言

私達は、上記にのべた侵害状況が自由権規約に則って改善されるよう、委員会が国に対して以下の勧告を行うことを提言する。

 

 

1.委 員会は、東京都などの自治体で、卒業式、入学式での「日の丸・君が代」起立斉唱において生じている事態が、思想良心の自由の権利に照らして深刻な懸念を呼 ぶものであることを認識する。国は、自ら人権を侵害してはならないことに加え、国の中で人権が守られることを確保する義務を負う。自治体で生じている事態 を是正するために必要な措置を国としてとるよう勧告する。

 

2.委 員会は、思想、良心、信念,信仰上の理由で、「日の丸」に向かって起立せず、「君が代」を斉唱しない、或いはピアノ伴奏しない教職員が懲戒処分され、その 他不利益に扱われていることを懸念する。規約18、19条が自治体で尊重されることを確保するよう、国に勧告する。

 

3.委員会は、裁判において、自由権規約の関連条項が適切に解釈適用されていないことに懸念を示し、一般的意見22、一般的意見34等に即して自由権規約が裁判で適切に解釈適用されることを確保するよう、国に勧告する

 

4. 委員会は、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の卒業式、入学式において、一般意見34のパラグラフ38に即して、「旗」や「歌」への敬意をいかな る方法であろうと、どのような人にとってであろうと強制してはならない事を、国及び自治体において徹底する措置を講じるよう、国に求める

 

 

 

 

 

 

 

 

第18条19条違反「日の丸・君が代」問題 注釈4、7、14

 

注4 国旗国歌の取り扱いに係る過去10年間の懲戒処分の全国発令状況

注7 減給・戒告等が職員に及ぼす不利益の比較表

 

注14 「君が代」の歌詞

1999年まで世界各国の在外日本公館では、「君が代」を「The Reign of Our Emperor(われわれの皇帝の治世)」と説明した外務省所管公益法人「国際教育情報センター」作成の冊子を配布していた。歌詞はD.H.チェンバレン の訳によるもの。(1999年7月2日 衆議院外務委員会政府答弁,1999年7月2日外務省報道官会見記録)

D.H.チェンバレンによる「君が代」の英語訳

A thousand years of happy life be thine!?  Live on, my Lord, till what are pebbles now,? By age  united, to great rocks shall grow,? Whose venerable sides the moss doth line.

汝(なんじ)の治世が幸せな数千年であるように?われらが主よ、治めつづけたまえ、今は小石であるものが?時代を経て、あつまりて大いなる岩となり?神さびたその側面に苔が生(は)える日まで

 

8 「日の丸・君が代」の強制とセンシティブ情報収集の問題

(第17条、18条、19条)

 

A 論点

1 全国で、公立学校の卒業式、入学式において、国歌(君が代)の斉唱時に国旗(日の丸)に向かって起立斉唱することが参加者に強制されている問題(第18条、19条違反)

2 裁判所が、起立しなかった教職員の氏名を含む不起立情報をセンシティブ情報(思想信条情報)と認めず、行政による思想信条情報の収集・保管を合法とした問題(第17条、第18条、19条違反)

 

B 自由権規約委員会の勧告、懸念

国旗(日の丸)・国歌(君が代)の強制に関する記述はない。

 

C 政府の対応と第6回政府報告書

規約第17条において、個人情報保護法が2005年に全面施行されて、誰でも安心して高度情報通信社会の便益を享受するための制度的基盤ができたとの趣旨の報告がある。

政府報告書には日の丸・君が代強制について何ら記述はない。

 

D 私たちの意見

D-1 君が代斉唱時に不起立であった者の情報が収集されている

D-1-a 侵略戦争のシンボルである日の丸・君が代が戦後も継続

戦前・ 戦中を通じて、君が代斉唱及び日の丸掲揚は,天皇・皇后の「御真影」に対する敬礼等とあわせて,天皇制に対する忠誠を涵養する装置として,教育課程制度の 中核に位置づけられていた。たとえば、第5期(1942~45年)国定教科書では「この歌は『天皇陛下のお治めになる御代は千年も万年もつづいて,おさか えになりますやうに』という意味として、教えられてきたのである。わが国の行なった侵略戦争と植民地支配の支柱の一つは,この皇民教育であり,君が代と日 の丸はまさにその侵略戦争のシンボルであった。

第2次大戦における日独伊三国同盟のうち、日本の日の丸・君が代は戦後も継続して使用されてきた。侵略戦争をきちんと反省していないところから、今日の日本軍「慰安婦」に関する問題発言などは出てきているのではないだろうか。

1999年には国旗国歌法が制定された。この法の制定に当たって政府は、「国旗国歌を強制しない」と答弁してきた。しかし、その前提は制定を機にすぐ破られ、強制が一気に進んだ。

 

D-1-b 生徒の意思が踏みつぶされる卒業式・入学式

日の 丸・君が代の強制は、卒業式、入学式の形態まで縛っている。生徒や教職員が意見を出して作り上げた、ステージを使わないフロア対面方式(生徒と保護者がお 互い向き合い、喜び合える方式)は、国旗国歌法成立(1999年)とほぼ時を同じくして禁止され、全員がステージ正面に掲げられた日の丸を仰ぎ見るように 座席の変更が強制された。まさに戦前と同じ形式である。

 

D-1-c 不起立者氏名の収集とリスト化

東京の 隣県である神奈川県は、東京のいわゆる10.23通達の1年後の2004年に、県立学校校長に対し国歌斉唱時に起立を求める通知を出している。はじめは不 起立者の人数収集であったが、2006年より氏名の収集が始まった。教職員の萎縮効果をねらったものである。不起立者をリスト化することにより、いつでも 処分できる状況であり、この春(2013年)から、教育委員会は不起立者本人に対し、次に不起立の場合「人事的措置も考えざるを得ない」との通告を行って おり、情報収集に基づく不利益処分が目前に迫っている。 (註 [6])

 

D-1-d 不起立情報は思想信条情報である

D-1- aでのべたように、日の丸・君が代は日本が過去の侵略戦争においてその象徴的な役割を果たしたことから、現在でもなお、それらに対し敬意を表すことができ ないと考える国民は決して少なくない。不起立行為はそのような歴史観・世界観に基づくものであり、その行為に関わる個人情報は思想信条情報であることは明 らかである。

 

D-1-e 個人情報収集の大原則さえも守られていない

校長が 不起立者に対し、情報を県教育委員会に提供することについて本人に同意を求めるとか、その情報収集の目的を伝えることなどは行っておらず、個人情報の取り 扱いの大原則は全く守られていない。不起立者は県に情報開示請求をして初めて自らの情報が収集されていることを知ることになる。

 

D-2 思想信条情報の収集を禁じる神奈川県個人情報保護条例

神奈川県はOECD の8原則を踏まえた、神奈川県個人情報保護条例を全国に先駆けて1990年に公布した。その第6条は、公権力による思想信条情報の取り扱いを原則として禁 じている。また、その逐条解説は「思想及び信条を原則取り扱い禁止とする事項として掲げたのは、内面の思想そのものまで統制しようとした過去の苦い経験を 踏まえたものである」と明確に述べている。

 

D-3 2つの諮問機関は収集「不適」の答申、しかし県教育委員会はそれを無視

2006年から不起立情報の収集が始まった。被収集者たちは行政不服審査機関である神奈川県個人情報保護審査会へ異議申し立てを行った。審査会は「思想信条情報の収集」であるとして、県教育委員会の収集を認めない答申を出した(2007年10月24日)。

そこ で県教育委員会は、行政が意見を聴く第三者機関である神奈川県個人情報保護審議会に「思想信条情報」であることを認めた上で、例外的な収集を求めたが、こ ちらからも「やってはならない」との答申を受けた。(2008年1月17日)。それにもかかわらず、県教育委員会は、2月4日には、特段の合理的理由を示 すことなく、それに従わない決定を行った。

翌日の新聞(2008年2月5日 神奈川版)は見出しで以下のように伝えている。

行政自ら条例骨抜き (神奈川新聞)

不起立「何のための答申か」(読売新聞)

審査会 は2010年1月20日に再度、氏名収集「不適」の答申を出した。その中で、県教育委員会が「特段の合理的理由」を示すことなく審議会答申に従わない決定 を行ったことを批判した。県教育委員会はその答申に対しも、直ちに従わない決定を行った(2月2日)。答申から2週間足らずで決定しており、答申を十分検 討したとは考えられない。

 

D-4 不起立情報は思想信条情報ではないとした裁判所

県が設置する2つの諮問機関が「不適」と答申してもなお収集を止めないため、不起立情報を収集された27名が裁判に訴えた。すると、県教育委員会は、審議会への諮問とは一転して、「思想信条情報」性を真っ向から否定し、「服務情報」であると主張してきた。

D-4-a 不起立理由がなければ思想信条情報ではないという危険な判決

一審の 横浜地方裁判所は、不起立情報については思想信条情報であることを認めた。しかし、二審の東京高等裁判所はそれを覆し、思想信条情報ではないとした。不起 立の事実しか収集しておらず、不起立理由を収集していないから思想信条情報ではないというのである。理由さえ聴かなければ、公務員に限らず生徒・保護者、 一般市民の不起立情報も収集可能となってしまう危険な判決である。最高裁は、本年(2013年)4月17日、上告人の訴えを退け、高裁判決が確定してし まった。

行政はセンシティブ情報の収集を自ら禁じた条例を守らず、それをチェックすべき裁判所は行政の主張をそのまま受け入れた。センシティブ情報に対する意識の低さを露呈している。

 

D-4-b 立法起草者は思想信条情報であることを認めている

神奈川 県個人情報保護条例の制定に関わった堀部政男一橋大学名誉教授(神奈川県個人情報保護審議会副会長)は、審議会で「私個人の意見を述べれば、世界的に、セ ンシティブ情報の取扱いについては特別の手続きを要するという傾向がある中で、神奈川県の条例でもこのような規定を入れることとなった」として、この情報 を「思想信条情報」と認めている。世界的動向を視野に入れた立法起草者に対し、行政機関、裁判所の遅れと視野の狭さが際立っている。

 

D-5 遅れている日本の個人情報保護

D-5-a センシティブ情報の収集を禁止していない国の個人情報保護法

国の個人情報保護法はセンシティブ情報の収集を禁止しておらず、大きな欠陥を持つ。国のそのような姿勢が、日の丸・君が代の強制や不起立者名の収集、保管を許し、裁判所もそれを容認してしまう素地を作っている。

 

D-5-b 強い権限を持つ独立した第三者機関の設置規定を持たない国の個人情報保護法

県が 自らの職権行使に対し公正、中立を担保するために設置した審議会は各界の有識者15名から構成される。また、行政不服審査機関としての機能を持つ審査会は 5名の法律の専門家から構成され、ともに県知事が委嘱している。その答申は実施機関にとって重いものであるはずだが、実際は行政の意向に反した答申なら、 上記で述べたとおりいとも簡単に無視し、裁判所もそれを

容認してしまう。第三者機関としての権限がきわめて弱く、その役割が十分果たせていないのである。国の個人情報保護法にはこの第三者機関の設置さえも規定されていない。第6回政府報告書でいう、だれでも安心して暮らせる社会とはほど遠い現状である。

 

E 解決のための提言

1 「日の丸・君が代」の強制に関わる委員会への提言は東京のレポート「F 解決のための提言」と同様である。

2 委員会は、「君が代」斉唱時に起立しなかった教職員の氏名を含む個人情報の収集が行われていることに懸念を示し、思想信条に関わる個人情報の収集が行われることがないよう国に勧告する。

3 委員会は、国の個人情報保護法がセンシティブ情報の収集を禁じていないことに懸念を示し、センシティブ情報の収集を禁じる法を整備し、裁判官、地方自治体等に研修や講義等を通じてその重要性を浸透させるよう国に勧告する。

4 委員会は、個人情報保護に関し、行政機関を監視する強い権限を持つ独立した第三者機関を設置するよう国に勧告する。また、地方自治体に設置されている第三者機関にも、同等の権限が与えられるよう国に勧告する。

 

1【資料】神奈川県教育委員会が県立高校校長に求めている不起立者を報告する書式

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9 生きている間に レッド・パージの名誉回復を!

 

A、論点(問題提起)

 

国連自由権規約18条「思想・良心の自由」、第19条「表現の自由」、第22条「結社の自由」、第26条「法律の前の平等」に違反する。

 

国連軍総司令官マッカーサー元帥による軍事占領下で行われたレッド・パージ

第2次大戦に敗北した日本は、1952 年4月までの6年8ヶ月間、国連軍総司令官マッカーサー元帥による軍事占領でした。1947年2・1ストの中止命令、1948年11月公務員のスト禁止、 1949年5月定員法による人員整理24万人に免職、そして、1950年9月朝鮮戦争中に閣議決定で「共産主義者等の公職からの追放」を行いました。

大橋豊は、1950 年8月、電気通信大臣より、公務員法78条にもとづく懲戒免職を受けました(解雇は懲戒処分として行われたのではなく、共産党員・同調者、組合活動家の大 量の職場追放です)。当時大橋は、産別会議・全労連加盟、全逓労働組合神戸中電支部執行委員でした。20歳でしたが、父と兄を亡くして5人家族の世帯主で した。下山、三鷹、松川事件に続くアカハタ新聞発行禁止、日本共産党中央委員の追放、そして レッド・パージが行われたのです。

 

いまだ謝罪も補償も名誉回復もされていないレッド・パージ被害者

レッド・パージされた人の人数は全国で30000 名といわれています。再就職の道もなく、生活の困窮は筆舌に尽くしがたく、家庭の崩壊、自殺者もあり、苦難の戦後を生きてきました。その影響は年金受給額 など現在にも及んでいます。裁判に訴え、下級審で勝訴したケースもありましたが、最高裁判所大法廷は「連合国最高司令官の書簡は指示であり、わが国の国家 機関及び国民に対し最終権威をもつ。書簡の効力の有無を審査判断する立場にない」と棄却しました。憲法違反のレッド・パージをされてから63年、今に至る も謝罪も名誉回復も補償もされていません。現在、裁判を行っている原告3人は、80~90歳代となり、「生きている間に名誉回復を!」「謝罪と補償を!」 強く望んでいます。

 

B、自由権規約委員会の勧告・懸念 

 

自由権規約日本政府報告審査にレポートを提出し、審査の傍聴もしてきましたが、「勧告・懸念」は「なし」です。

国内では日本弁護士連合会に救済の申し入れを行い、2008年10月、「特定の思想・信条を理由とする差別的取扱いであり、思想・良心の自由、法の下の平等、結社の自由を侵害するもの。いかなる状況においても許されるものではない」と当時の麻生太郎内閣に勧告しました。

 

C、日本政府・裁判所の対応

 

日本政府は、当時の日本は占領軍下で、「レッド・パージは『超憲法的』措置であり、すでに決着している問題である」と門前払い。2009 年3月に、川崎義啓(旭硝子、現在96歳)、安原清次郎(川崎製鉄、現在92歳)、大橋豊(現在83歳)が神戸地裁に国賠請求訴訟をしましたが、「レッ ド・パージは連合国軍総司令部(GHQ)の指示で超憲法的判断」「救済は国会の裁量範囲」との判決で、上告した大阪高裁、最高裁はいずれも「上告棄却」の 判決をくだしました。政府の姿勢と同じです。司法の独立はどうなっているのでしょうか。

 

D、意見

 

政府 は、戦争責任を問われ、連合国の要求で実施した公職追放者については講和条約発効前から段階的に解除の措置をとり、講和条約が発効した時にはすべての追放 が解除となり、同時に恩給、年金、その他の手当てや利益を受ける権利・資格を回復し、公職への復帰まで行われました。一方、ポツダム宣言に反し、日本国憲 法が最も重要な基本的人権として保障している思想・信条の自由を踏みにじるレッド・パージ被害者に対しては、なんら救済措置はとられていません。「占領軍 下に超憲法的に行われたこと」であると言うなら、1952年の講和条約発効(占領終了.主権回復)以降、自主的にレッド・パージ被害者の名誉回復措置をとることは十分可能でした。日本国憲法では決して許されないレッド・パージ被害者こそ、まず第1に救済されるべきです。放置してきた政府の責任は重いと思います。

 

E、解決のための提言

 

人権救済に「時の壁」は、ありません。たとえ占領下であっても「思想・良心の自由」は尊重されなければならず、侵害された人権は回復されなければなりません。

裁判の 結果を不服とし、現在、再審の申立を準備中ですが、申立をしている3人は超高齢者です。時間がありません。最高裁判所は、一刻も早く「再審申立」を受理 し、法廷をひらき、日本国憲法に基づいて審理をしなおすころです。自由権規約委員会としてレッド・パージ犠牲者の救済を日本政府に強く勧告してください。 また、自由権規約の選択議定書をすみやかに批准し、個人通報制度の実現を強く勧告してください。この制度があれば、私たちの問題はもっと早く解決したと思 います。個人通報制度は、経済大国と言われながら人権の面で著しく立ち遅れている日本の人権を前進させるために不可欠の制度です。

 

10 「表現の自由」を侵害する教科書検定制度

(第19条に関連して)

 

自由権規約第5 回報告書まで、日本政府報告書では第19条に関してこれを制限している実例の一つとして教科書検定を取り上げていた。第5回報告書以降現在まで、教科書制 度に何ら変更は加えられていないにもかかわらず、第6回報告書には教科書検定についての記述がない。それゆえ私たちは第5回報告書で示された教科書検定に 関する問題点を委員会に報告する。

 

A、教科書検定制度は自由権規約第19条を侵害するものである

 

B、第5回審査ではなし。

 

C・D、政府の対応とそれに対する問題点と意見

 

1、自由権規約第5回政府報告書の記述とそれに対する問題点と意見

第5回政府報告では、教科書検定について次のように述べていた。それ以前の報告書でも、教科書についてはほぼ同一の記述がなされている。

301. 我が国では、学校教育法により、小・中・高等学校等において教科の主たる教材として使用される教科書については、民間で著作・編集された図書について、文 部科学大臣が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認める教科書検定制度が採用されている。

302.小・中・高等学校の教育については、国民の教育を受ける権利を実質的に保障するため、①全国的な教育水準の維持向上、②教育の機会均等の保障、③適正な教育内容の維持、④教育の中立性の確保などが要請されている。

303. 教科書の検定は、上記の要請を実現するために、これらの観点に照らして、不適切と認められる内容を含む図書のみについて、主たる教材である教科書として発 行することを禁ずるものに過ぎず、一般図書として発行することを何ら妨げるものではないことから、表現の自由の制限は合理的で必要やむを得ない限度のもの である。この考え方は、1993年3月16日最高裁判所判決においても示され、その後の判決においても支持されているところである。

 

上記の記述は、パラ301 の単なる制度の説明以外、教科書についての実情を正確に反映したものではない。確かに「国民の教育を受ける権利を実質的に保障する」全国的制度は必要であ ろう。しかしそれがなぜ教科書から第19条が規定する言論・表現の自由を制限しなければならないことの理由になるのかについて、これまで締約国(政府)は 合理的説明をしていない。パラ302で示された「教育の機会均等の保障」、「適正な教育内容の維持」、「教育の中立性の確保」のいずれも同様に第19条制 限の根拠となるものではない。これらはいずれも締約国(政府)が、検定を受けた教科書を小・中・高等学校で使用することを法律上義務づけている[7]ことを反映するものである。この使用義務のために検定済み教科書は、第19条によって保障されるべき自由を享受することができず、学校教育において教育内容を統制する道具として機能している。

 

パラ303 は、教科書として発行することを目的として編集された書籍が教科書としては使用できないことを示している。したがって検定制度が実際には出版の自由を侵害 するものであることを示している。報告書は「1993年3月16日最高裁判決」のみを19条制限の根拠としているが、この判決に対しては法律家や研究者か らの有力な批判があること[8]に言及していない。この点でパラ303は正確な状況を示していない。

自由権規約第19 条3項の規定によれば、表現の自由が制限されるのは次の場合のみである。すなわち (a) 他の者の権利又は信用の尊重、(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護、のみを目的として法律によって定められている場合に 限定されている。しかし締約国(日本)における教科書検定制度はこのいずれにも該当していない。

 

2、教科書検定で問題となった事例

教科書検定制度は、教科書に政府見解と異なる見解を載せることを排除してきた。いくつか例示する。これらは検定による問題となる事例のごく一部にすぎない。

 

2007 年の高等学校用日本史教科書の検定で、1945年の沖縄における日本軍が住民を強制的に死に追い込んだ問題について日本軍の責任を示した記述を拒否した。 これは沖縄県の住民の大きな怒りを巻き起こし、10万人を超える集会が開かれた。しかし今に至るも検定の所管省庁である文部科学省は検定意見の誤りを認め ていない。

1980 年の中学校地理の教科書で、1979年のアメリカ・スリーマイル島原子力発電所の事故についての批判的な記述に対し、検定合格後に原子力発電の安全性を強 調する記述に変更させた。原子力発電の危険性より安全性を強調するこの姿勢は2011年の福島第一原子力発電所の事故後も大きく変わっていない。

1996年の中学校社会科への検定で「従軍慰安婦」の事実に関する記述に対し、変更を余儀なくさせた。それ以来今日まで、この問題については事実上教科書に記述することは不可能となっている。

3、教科書統制をさらに強化する動きが強められている

現在、教科書からさらに言論・表現の自由を奪う動きが強められている。政府与党である自由民主党は検定による教科書統制をさらに強化する制度改革、および教科書の事実上の国定化をめざす法案を制定することをもくろんでいる[9]

社会科 教科書の検定を行う教科書調査官の中には長年にわたって歴史修正主義の支持者がおり、歪んだ歴史認識、とりわけ第二次世界大戦における日本の戦争加害につ いての記述を後退させる役割を演じている。日本の戦争加害の事実を教科書に掲載させないようにすることを目論んでいる。社会科の元主任教科書調査官の一人 は現在、歴史修正主義者の団体「新しい歴史教科書をつくる会」の副会長である。

 

E、解決のための提言

 

教科書検定制度は規約19条「表現の自由」を侵害するものである。教科書検定制度の廃止を勧告するよう強く要請する。

11 消防職員の団結権保障を早期に実現せよ

 

消防職員ネットワークは、1997 年に結成され、現在約1000人の消防職員が加入しています。本会の目的のひとつが、156,000人の消防職員の悲願である団結権保障を早期に実現する ことです。1995年と1997年、2008年にILO本部を訪れ、団結権の回復を要請し、自由権規約委員会ほか国際人権機関へのレポートも機会あるごと に提出しています。

 

A、論点

 

自由権規約22条1項、2項、3項に関連して

日本の消防職員に団結権を保障しないことは自由権規約第22条に違反しています。日本の消防職員が「警察の構成員」であるとの見解は、日本政府の都合のよい解釈です。端的に言えば、ウソをついているのです。国際法的にみて、また国内法的にみても、消防職員に団結権を保障しないことは立法不作為に相当します。

 

B、自由権規約委員会の勧告・懸念

 

この違反に関して由権規約委員会から日本政府への勧告・懸念等は示されていません。

 

C、政府の対応

 

(1)国際人権規約批准時の日本政府の「解釈宣言」は国際法違反である

日本政府は1965年にILO第87号条約を批准しました。当時、日本政府は消防職員に団結権を保障しないままこの条約を批准したために、この問題を現在まで引きずることになりました。ILO第87号条約第9条は下記のとおり規定されています。

1 この条約に規定する保障を軍隊及び警察に適用する範囲は、国内法令で定める。

2 国際労働機関憲章第19条8に掲げる原則に従い、加盟国によるこの条約の批准は、この条約の保障する権利を軍隊又は警察の構成員に与えている既存の法律、裁定、慣行又は協約に影響を及ぼすものとみなされない。

また、日本政府は1979年に社会権規約と自由権規約を批准する際、次のような解釈宣言をしました。

日本国政府は,結社の自由及び団結権の保護に関する条約の批准に際し,同条約第9 条にいう「警察」には日本国の消防が含まれると解する旨の立場をとったことを想起し,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約第8条2及び市民的及 び政治的権利に関する国際規約第22条2にいう「警察の構成員」には日本国の消防職員が含まれると解釈するものであることを宣言する。

(2)第6回日本政府報告とその後の経過

自由権規約第6回日本政府報告で消防職員の団結権保障問題が下記のように記述されています。

我が国は、1978 年に同条2の「警察の構成員」に我が国の消防が含まれるとの解釈宣言を行っているが、消防職員の団結権問題については、1995年に国民的コンセンサスの 得られる解決策として消防職員委員会という仕組みを導入した。2005年には、同制度の運用を改善するため、総務省・消防庁と全日本自治団体労働組合との 間での議論における合意を踏まえ、意見とりまとめ者制度の創設などの改正を行った。その後、2010年1月に「消防職員の団結権のあり方に関する検討会」 を総務省に設置し、労働者側及び使用者側双方の代表者からの意見及び関係団体からのヒアリング結果等を踏まえ、2010年12月に報告書をとりまとめたと ころである。

なお、2010年5月21日に総務省で開催された「消防職員の団結権に関するあり方検討会」のヒアリングで、消防職員ネットワークの会長が全国の消防職場の問題を訴え、早期に団結権を回復させるように検討会委員に訴えました。

2012 年に日本政府は消防職員委員会を廃止して、消防職員に団結権と団体交渉権を保障することを明言しました。同年11月15日に消防職員の団結権保障のみが国 会に上程されました。しかしながら、翌日、衆議院が解散したため、この政府案が審議されることはありませんでした。

 

D、意見

 

1、消防職員委員会は団結権の解決策にはならない

消防職員委員会は消防組織法第17条に規定された職務であるので、地方公務員法第52条から第56条に規定された「職員団体」とは全く異質です。つまり、消防職員委員会は団結権の解決策にはならないのです。消防職員委員会は労使の交渉の場ではないのです。

ごく一部の消防職員が、職場での問題を解決できないために、公平委員会や人事委員会に勤務条件の措置要求を提出しています。それでも解決しないので、訴訟に持ち込むということがあります。裁判所に問題解決を求めるのは、全国的に起きている職場の問題の一部に過ぎません。

2、地方公務員制度改革の一部ではない

消防職員の団結権保障問題は地方公務員制度改革の一部として取り扱われています。消防職員の団結権保障問題はこの40年間、国際法違反としてILO、国連人権規約委員会等で注目されてきました。地方公務員制度改革は審議が進んでいません。

 

E、結論(解決のための提言)

 

消防職員の団結権保障問題は地方公務員制度改革とは別に審議されるべきです。国際的な懸案事項を解決するという取り組みが必要だからです。地方公務員法第52条第5項から「消防職員」を削除し、関連法令を整備するべきです。

私たちは、日本政府が消防職員の団結権に関する、国連・社会権規約委員会の勧告、およびILO結社の自由委員会・条約勧告適用専門家委員会の勧告を遵守し、日本の消防職員の人権が国際レベル(グローバルスタンダード)にまで保障されることを求めています。

12 日本航空(JAL)による165名の不当解雇に関する報告

 

A、日本航空が2010年12月31日に行った整理解雇は、自由権規約第22条に違反

 

病気欠勤歴、年齢を理由の解雇は自由権規約第26条「差別の禁止」に違反するので改善を求めます。

(1)事件の経過と取り組みの状況

日本航空は再建プロセス途上にあった2010年12月31日、病気欠勤歴と年齢を基準に165名(パイロット81名、客室乗務員84名)を解雇しました。その時点における人員削減目標も利益目標も達成していた中での解雇でした。日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)では現役の委員長、執行委員が、またパイロットでも現役の航空連議長や副議長、日乗連(ALPA japan)議長等、日本での産別組織において指導的立場にある者や多くの活動家が解雇されました。

(2)東京地裁は不当判決、現在東京高裁で裁判中

148名(パイロット76名、客室乗務員72名)が裁判で争いましたが、2012年3月、東京地方裁判所は原告の主張を全面的に退けた不当判決を下しまし た。判決は認められないとして、パイロット71(後に70)名、客室乗務員71名がそれぞれ東京高等裁判所に控訴しました。2013年9月12日に客室乗 務員、9月26日にパイロットの第4回目の口頭弁論が行われます。9000筆を超える団体署名、220000を超える個人署名が東京高裁に提出されていま す。また829名(過去最高数は300名)の弁護士がJAL解雇事件の判決は不当であるとして原告の代理人に加わるという大型争議になっています。

(3)ILO結社の自由委員会に申し立て

2011年3月23日、CCUはパイロットを組織する日本航空乗員組合(JFU)とともにILO結社の自由委員会に申し立てを行いました。前述したような経営者の姿勢及び正常な組合活動に対する妨害行為は組合攻撃であり、ILO条約87号及び98号に違反すると主張しました。

2012年6月15日、ILO 理事会はJAL争議に関する結社の自由委員会の勧告を含む報告書を発表しました。これはJFUとCCUが申し立てを行った人員削減プロセスにおける ILO87号及び98号の違反ケースにおける最初の勧告です。ILOによる監視結果によってはさらなる勧告・調査が行われることが予想されます。

ILOは会社再建プロセスにおいて労働者に与える負の影響を最小限にするためには当事者間での交渉が不可欠であることを認め、協議・交渉がとられるよう、またその推移をILOに知らせるよう日本政府に要請しました。

(4)解雇の一方で大量の新規採用

日本航空は2010年12月31日に84名の客室乗務員を整理解雇した一方で、2012年7月以降、1140名の客室乗務員の新規採用を行っています。 「解雇者を戻す」という会社からの申し出は全くありません。組合からの、自主解決の申し出についても「係争事件についてはコメントしない。自主解決の話し 合いは難しい」という不誠実な姿勢を変えていません。

 

B、第5回審査から4年後の2010年12月に解雇が行われたので、自由権規約の「勧告・懸念」はありません。ILOの勧告は上述の通りです。

 

C、政府の対応

 

なし。ILOの勧告に対しても対応していません。

 

D・E、意見・問題解決のための提言

 

解 雇の本当の理由は、人間として譲れない要求を団結して守り、運航の安全より企業利益を優先させる被控訴人の政策を社会的に批判する、ものを言う労働組合と 組合員を企業から排除することにありました。更生計画の外皮の下に構造的に組み込まれた不当労働行為。本件解雇の本質は、ここにあります(代理人弁護士の 陳述より)。

JALによる解雇は不当労働行為であることは明白です。自由権規約に反し、日本の法律にも反する解雇が許されることがあってはなりません。適切な勧告を出して頂けますようお願い申し上げます。

 

協力団体名

このカウンターレポートは下記の団体の協力により作成されました。

 

1.日本国民救援会

2.自由法曹団

3.全国過労死を考える家族の会

4.治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟

5.東京・教育の自由裁判をすすめる会

6.君が代不起立個人情報保護裁判原告団および同裁判を支援する会

7.兵庫県レッド・パージ反対懇談会

8.日本出版労働組合連合会

9.消防職員ネットワーク

10.日本航空(JAL)不当解雇裁判原告

[1] 1961年、三重県名張市で、懇親会の席上に出されたぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡、12名が重軽傷を負った事件。ぶどう酒から農薬が検出されたため、殺人事件として、ぶどう酒を公民館に運んだ奥西勝さん(当時35歳) が逮捕、起訴された。一審は無罪判決。二審の名古屋高裁で一転して死刑判決。1972年、最高裁で死刑確定。現在、第7次の再審請求中。第7次請求審で、 弁護団の新鑑定によりぶどう酒に入れられた農薬が「自白」で認定された農薬と違っていたことが明らかになり、名古屋高裁(刑事1部)は2005年4月に再 審開始の決定を出した。その後、名古屋高裁(刑事2部)がこれを取り消す決定を行ったが、最高裁がこの決定を取り消して、名古屋高裁に差し戻した。差戻し の審理で、名古屋高裁はあらためて再審開始決定を取り消したため、現在、最高裁で係争中。

[2] 1966年、静岡県清水市のみそ製造会社専務一家4人が殺害され、自宅が放火された事件で、元プロボクサーでみそ工場で働いていた袴田巌さん(当時30歳) が逮捕された。警察は連日12時間(最高16時間)にも及ぶ長時間の取調べをおこない、またアルコール中毒患者を代用監獄の同じ房に入れて睡眠を妨げるな どして自白を強要し、45通の「自白」調書が作成された。一審の静岡地裁は、自白強要を認めて44通の調書を不採用としながら、残りの1通の調書を採用 し、1968年、死刑判決を言い渡した。最高裁で1980年に死刑判決が確定。現在、第2次再審請求を静岡地裁に申し立て、犯行時の着衣とされる5点の衣 類の血痕のDNA型鑑定を行ったところ、被害者に由来するものではないことが判明し、警察による証拠ねつ造の疑いが強まっている。

[3]1967年、茨城県利根町布川で起きた強盗殺人事件。桜井昌司(当時20歳)、杉山卓男(当時21歳) の二人が逮捕、起訴され、1970年に水戸地裁で無期懲役の判決、1978年に最高裁で確定。1996年に仮釈放されるまで、二人は29年間の獄中生活を 余儀なくされた。第二次再審請求審で再審開始が決定され、事件から44年目の2011年に再審無罪の判決が出された。再審請求審で検察側が証拠開示した、 桜井さんがすすんで自白した証拠とされた取調べの録音テープには十数か所にわたって編集の跡が見つかっている。

[4]1997年、東京電力の女性社員が東京都渋谷区で殺害された事件で、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ(当時30歳) さんが逮捕された。2000年4月、一審の東京地裁は「第三者の犯行の可能性」を指摘し無罪判決。ゴビンダさんはオーバーステイであったため、通常は国外 退去となるはずが、検察が裁判所の職権による勾留を要求し、最高裁がこれを認めたため、異例の「無罪勾留」が行われた。同年12月、東京高裁で無期懲役の 逆転有罪判決が出され、2003年、最高裁で確定。2005年からの再審請求審で、新たなDNA型鑑定が採用され、2012年に東京高裁が再審開始を決 定。同年、再審無罪判決。ゴビンダさんは15年ぶりに帰国を果たし家族の元へもどったが、その父親は息子との再会を果たせないまま5年前に他界していた。

[5] 高裁判決の後、最高裁判決にいたる間に、この総括所見を引用し、ゼネラルコメント34のパラグラフ37が出されたことも識者の注目を集めていた。

[6] 【資料】神奈川県教育委員会が県立学校校長に求めている不起立者を報告する書式(最後に掲載)[6]

 

[7] 学校教育法第34条。

[8] 他の諸判決のうち、1970年の東京地方裁判所の判決(杉本判決)は、特に説得的なものとして知られている。

[9] 自由民主党「教科書検定の在り方特別部会 議論の中間まとめ」(2013年6月25日)

 

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